
豊かな人生を送るために、一人ひとりが「自分の資産とどう向き合っていくのか」を真剣に考えることが必要な時代になっています。特に若い世代にとっては、投資信託等による資産形成を早期に考えることが将来の可能性を拡げることに繋がります。
未来の「投資による資産形成」について、あなたの若い発想で考えてみませんか?
過去2回のアワードでは、幅広い学部の学生の皆さんから自由な発想による論文・レポートをご応募いただきました。物理学専攻のあなた、哲学専攻のあなたにとっても資産形成は今後必要となってくる事柄です。皆さんの日頃の学び、考えを本アワードにぶつけてみませんか?論文に昇華させてみませんか?
資産形成学生論文アワード2025(第3回)受賞者
資産形成学生論文アワード2025受賞者、論文名及び各論文への審査講評を公表いたします。優秀賞及び佳作につきましては論文本文をダウンロードいただけます。
最 優 秀 賞
該当なし優 秀 賞
池ヶ谷 真希さん(高崎経済大学経済学部)「資産運用に対する意識が個人投資家の投資行動に及ぼす影響」
【審査講評】 投資信託協会の1万人調査個票データから、独自に「金融機関選定軸」と「投資判断軸」を設定し、「資産運用に対する姿勢」に着目して分析を行ったことは意欲的でした。特に、「金融機関に求めること」や「投資で重要と考える点」を切り口とする視点に独自性がありました。
また、各変数の説明や係数の符号の予測や推計結果、さらに分析結果から示されないことや理由不明の部分を率直に記述していること等、全体に丁寧で分かりやすい記述がなされており、優れた論文として優秀賞を授与し、作品を公表いたします。
他方で、主要な変数の設定根拠が必ずしも明確でなく、恣意性がやや感じられ、分析精度には改善の余地が感じられました。説明は丁寧であるものの、結果依存的であることが否めず、仮説の提示や検証という研究の基本構造が十分に機能していない点は惜しまれるところでした。選択肢の選び方や得点化の方法は結果に大きな影響を及ぼします。すべての項目をダミー変数に変換し、被説明変数との関係を調べるなど、より中立的な代替手法も検討の余地があったと思われます。
結果依存的な面は、分析から導かれる結論からの示唆が限定的であることにも繋がっていると感じられ、結論の将来性や提言の一段の掘り下げが求められました。また、「資産運用に対する意識」が示すことについても、より明確な説明が求められました。
それらから、最優秀賞には至りませんでしたが、全体的な丁寧な記述には、基礎力が示されており、現状に留まらずさらに発展することが感じられ、筆者の将来性を高く期待いたします。
優 秀 賞
松田 昂太朗さん(京都大学大学院情報学研究科)「NISA制度を考慮したポートフォリオ最適化」
【審査講評】 通常のポートフォリオ最適化では、税制を明示的に扱わないことが一般的であるところ、リバランス時において課税・非課税を両方含めてモデル化し、分析するという本作の試みには、高度な工夫と新規性が認められました。優れた論文として優秀賞を授与するとともに作品を公表いたします。
ただし、分析の根幹に関わる論点の記述が不明瞭でありました。中核となるシミュレーションの扱いについて、本作では一期間モデルを繰り返した最適化が行われていますが、その際に、各シミュレーションパスの価格を「実現した将来」とみなして最適化しているのか、あるいはそうではないのかが明記されておりませんでした。前者であれば整合的であると思われますが、後者であればモデルの前提が成立しない可能性が否定できず、極めて重要な点と考えられます。
さらに、本作の核心となるモデルの新規性は、「NISAを考慮した最適化」より、むしろ「税金を考慮したリバランス最適化」にあると思われます。NISAを考慮した最適化モデルの部分は、一般に、税制を考慮しない従来モデルと法制上の制約以外は大差なく、タイトルと内容の対応関係にはやや乖離が感じられ、タイトル面でも改善の余地があると思われました。それらの観点から最優秀賞には至りませんでした。
しかしながら、着眼点と分析手法自体は、記述が正しい前提のもとでは、凸最適化として解くことができる構造を的確に捉えており、高く評価いたしました。
シミュレーションに加えてバックテストを行う、リスク資産の最適投資金額の比較を行うなど、もう一段の検証が行われていれば、実務的・学術的な妥当性をより裏付けることになると思われます。筆者の今後の研究の深化を期待いたします。
佳 作
浦部 凪人さん(青山学院大学経営学部)「イベント発生時の株価変動と新聞の感情スコアの関連性」
【審査講評】 ニュース報道の内容を、感情分析及び共起ネットワーク分析により数値化し、株価変動との関係を探ろうとすることは、意欲的な試みでした。先行研究を的確に踏まえたうえで、平常時ではなく2025年4月7日から11日というイベント時に着目した分析設計は評価に値します。また、新聞の1面と3面を比較するなど、ニュース価値の層を読み解こうとする視点も独創的でした。論理構成は明晰で、手法の説明も丁寧であり文章力も高く、佳作を授与して作品を公表します。
一方で、分析期間が短くデータ数が少ないため、結果が偶然性に左右された可能性は否定できず試験的に見受けられます。当該期間は日経平均の騰落率とNYダウ前日騰落率の相関が高く、米国市場の影響だけで説明できてしまう局面でありました。この点を踏まえ、外的要因を統制したうえで複数イベントでの再検証が求められます。すでに実務レベルでは、例えばヘッジファンドがビッグデータから市場センチメントをAI分析するなどが実践されています。
また、紙面情報を基点とした分析であるため、電子版や速報ベースで投資判断が行われる実務環境とのタイムラグが生じる可能性もあり、配信日前後の期間をやや広くとった検証が望ましいと感じられました。さらに、共起ネットワークから得られる定性情報を感情スコア分析と有機的に接続できれば、分析の一貫性と説得力がより高まったと思われます。
それらから、優秀賞に一歩及びみませんでしたが、将来性あるテーマであり、マーケティング分野の手法を持ち込んだ多面的なアプローチは魅力的であるだけに、得られた知見を踏まえた提言や、新たなリサーチクエスチョンの提示が加われば、研究として一層の深まりが期待できます。筆者のさらなる探求を期待いたします。
奨 励 賞
村瀬 巧実さん(立命館大学法学部)「若年層の資産形成をめぐる法哲学的考察 ―「自由・責任・公共性」の観点から」
【審査講評】 資産形成という経済的テーマを、「消極的自由」「積極的自由」という法哲学の概念を軸に再解釈し、「自由・責任・公共性」の三つの視点から制度のあり方を問い直した点は独創性がありました。
文献を参照しつつ論理を丁寧に組み立てた構成は明晰で、金融包摂の視点を持ち、金融制度やサービスの意義を考察しています。資産形成を、金融教育等個人の能力形成と結びつける考察は説得力があり、今後の成長・発展を期待して、奨励賞を授与いたします。
ただ、既存の議論との接続がやや弱く、先行研究の整理が不足しているために、独自の主張を裏付ける学術的基盤が十分に示されていない点が、惜しまれました。
投資における自由・責任論や金融教育の必要性は広く論じられており、本作の独自性をより強めるには、先行研究の批判的検討や哲学的枠組みの意義をより深掘りする必要があると思われます。リバタリアン・パターナリズムをふまえた政策提言としての「真の自己決定能力を育むための金融教育の必修化」と「ジョン・ロールズの格差原理に即した低所得者層への公的マッチング補助金制度の導入」は、若者視点としてはとても興味深い一方で、さらなる精緻化が求められました。
しかしながら、資産形成を哲学的視座から捉え直す試みは新鮮であり、社会課題に向き合う問題意識を高く評価いたします。今後、先行研究との接合や制度比較をさらに深めることで、一層の研究の発展を高く期待いたします。
アイデア賞
松岡 剛也さん(金沢大学人間社会学域経済学類)「生成AIを用いた長期投資ポートフォリオ分析」
【審査講評】 生成AIを用いた銘柄選択とポートフォリオ構築をテーマに据え、現在の関心領域に正面から取り組んだ点に意欲が感じられました。生成AI 活用の可能性を検討する発想力や、若年層の投資行動やロボアドバイザーへの応用を見据えた視点は今後の発展性を感じさせられ、アイデア賞を授与いたします。構成は明快で、先行研究の知見を踏まえつつ議論を組み立てようとする姿勢も評価いたします。
その一方で、分析手法やそれを記述する論文としては改善の余地がありました。生成AI を用いた銘柄選択が過去データに強く依存しているため、結果的に「過去に成長した企業を選び直した」に留まってしまっている点は否めませんでした。
また、ウェイト付けやベンチマーク設定といったポートフォリオ運用の根幹部分が十分に検討されておらず、パフォーマンス評価も行われていないため、本研究の結論に実証的な説得力を持たせるには至っていませんでした。
しかし、生成AIを投資に応用する試み自体は将来性の高いテーマであり、アイデアとして光るものがあります。生成AI研究に関する海外文献の整理や、生成AIを投資判断に用いる際の限界・リスクへのより踏み込んだ検討も求められるデータの扱い方や理論的背景をより精緻化し、生成AIの限界と可能性を批判的に捉え直し、本研究が発展することを期待いたします。
募集要項(現在募集は終了しております)
開催実績
・資産形成学生論文アワード2024・資産形成学生論文アワード2023
# 投信協会 学生論文
# 資産形成 論文
# JITA Research Award
