インタビュー 加入者に届く、効果を生む継続投資教育とは
~成功のコツ・失敗を避けるヒントを学ぶ~

継続投資教育に関心を持つ企業が増えている一方で、その企画や実施に悩む担当者も少なくありません。今回は数多くの企業の継続投資教育を支援しているお二人に、そのポイントなどについてインタビューしました。

※本記事は、2022年9月1日~9月30日にオンデマンド配信した「企業型確定拠出年金カンファレンス2022秋」の講演内容を基に構成したものです。

登壇企業

◆パーソルテンプスタッフ株式会社 第一BPO事業本部 金融事業部
  Finansta(フィナンスタ) チームリーダー 堀 実さん
 
◆ライフアセットコンサルティング株式会社 代表取締役 菱田 雅生さん

インタビュアー

NPO法人 確定拠出年金教育協会 理事兼主任研究員 大江 加代さん

◆大江さん
企業型確定拠出年金(DC)カンファレンスでは毎回、企業型DC導入事業主の関心が高い継続投資教育について取り上げています。
これまでは事業会社にその取り組みを紹介いただいていました。他の会社の実際の取り組みを知る機会になったと好評でしたが、今回は少し趣向を変えて、多数の事業主から委託を受けて継続投資教育を実施されている、つまり、数多くの事例をご存じのお二人に登壇いただいて、本当に加入者に届く、効果を生む継続投資教育とは何か、その成功のコツ・失敗を避けるヒントをお伺いしていきたいと思います。

事業主が投資教育を依頼する事例 ―
熱心な企業から、プロにお任せしたい企業まで

◆大江さん
継続投資教育を実施する事業主の中にも、非常に熱心で、“ありたい姿”がはっきりしていて、内容のカスタマイズを好む事業主と、プロにお任せしたい事業主があると思います。まず堀さんにカスタマイズの事例をお伺いします。堀さんが手がけられた継続投資教育で、企画段階から事業主と一緒に加入者の行動変容を目指して取り組み、それが確認できたような事例を教えてください。

堀実氏写真

パーソルテンプスタッフ株式会社 堀 実さん

◆堀さん
非常に熱心な企業もあります。そのような企業は、担当者の方が導入の時から携わっているということも多いですね。そうした方がこだわりを持ってやっていらっしゃる。ただし、そういう企業でも、従業員の方の金融リテラシーが向上しなかったり、せっかくDCを導入したのに、選択制の場合などで、なかなか選んでくれなかったりという例が少なくありません。
そういう先の一つに私が提案したのが、社内インフルエンサーを作るという企画です。DCや資産運用に興味・関心を持ってきちんと向き合っていくような人たちを社内の各部署で選んでもらい外部の専門家が講師としてやってきてセミナーを開くだけでなく、座談会形式でざっくばらんに意見を交換する場なども設けたところ、本音での質疑が飛び交い自社のDC制度を本当の意味で理解していただくことに繋がりました。
その人たちから部署内で伝えて頂くことによって制度認知や利用率が大幅に向上しました。

従業員は会社にお金の情報提供を求めている

◆大江さん
壇上の講師から受ける講義は距離感がありますが、社内の同僚や上司などの仲間から情報を届けられると、自分もやってみようという気持ちになりますね。

◆堀さん
大切なのは、各インフルエンサーがインプットするだけでなく、得た情報や知見を各職場に持ち帰って、朝礼などでアウトプットし、広めていくことです。それによってインフルエンサー自身の理解にもつながり、また次回も参加してもらえます。

◆大江さん
従来にはなかった新しい手法ですね。それ以外に、カスタマイズした教育の事例はありますか。

◆堀さん
運営管理機関とタッグを組んで取り組んだ例もあります。運営管理機関が投資教育を実施する場合、どうしても法律の制限があります。「どの商品を選べばいいのか」といったことは、多くの加入者が関心を持つことですが、運営管理機関という立場では言いづらいでしょう。
そこで、運営管理機関が開催するセミナーの後に、DCの継続教育とは切り離して私たちのような企業がファイナンシャルプランナー(FP)による個別相談会などを開くことによって、より身近な相談を受けることができます。

◆大江さん
菱田さんにお尋ねします。当協会で継続投資教育の状況を調査すると、方法としては対面セミナー、講師は運営管理機関というパターンが最も多いのです。そこから推察すると、専門家としての知見・経験のあるプロに、企画から講師までお任せしたいという事業主が多いように思いますが、実際のところはどうですか。

◆堀さん
各企業の担当者のモチベーションによっても大きく違ってくると思います。担当になったから、自分できちんと運用も考え、商品ラインナップなども真剣に考えたいと思う人もいます。そのような方は継続投資教育も積極的ですし、運営管理機関としっかりと話もされます。一方で、「制度を導入してから10年間、何もしてこなかったが、そろそろやらないとまずい」と私たちに相談されてきた企業もあります。

継続的に実施していく価値と
それを実施するためのヒント・工夫

◆大江さん
10年間、何もしてこなかったような企業の場合、無関心層も多いと思います。加入者に必要事項を伝え、必要なアクションを取ってもらうためにどのような工夫が必要でしょうか。

岩永 健吾さん写真

ライフアセットコンサルティング株式会社
代表取締役 菱田 雅生さん

◆菱田さん
そもそも、担当者すら無関心という可能性があります。日本では、DCに限らず、お金に関する危機感が薄い人が多いようです。20代、30代の従業員の方で健康診断に関心がある人が少ないように、お金のことを気にしていないのです。
そこで、私がセミナーをやらせていただく際には、実際に老後に苦労されている方の事例などを紹介し、危機意識を持っていただくようにしています。ただしその一方で、意識を持って早く取り組めば大丈夫だし、そのための知識を楽しんで身に付けていただくようにもしています。そのために、動画を使ったり、クイズ形式で参加してもらえるようにしたりといった工夫をしています。

もう一つ、担当者の方向けには、運用の有無により、数十年先には大きな差が生じるということを理解してもらうようにしています。その上で、継続投資教育をやったほうがいいと意識していただくようにしています。

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ただ難しいのは、それが担当者の方々の評価にどうつながるのかという点です。担当者の方の上長の方や経営者の方も含め、企業として課題を認識し、効果検証することが必要です。それにより、担当者自身の業務評価や次年度の予算確保につながると思います。

◆大江さん
堀さんにも同じ質問ですが、企業として継続的に教育を実施していくにはどのような取り組みが必要でしょうか。

岩永 健吾さん写真

インタビューアー 大江 加代さん

◆堀さん
まずは、従業員の方々にとってためになる教育であることをきちんと認識していただきたいですね。老後の資産形成のための資産運用というだけでなく、ウェルビーイング(心身の健康や幸福)、健康経営なども含めた従業員のEX(従業員の成功体験)を左右します。さらには、ESG(環境・社会・企業統治)、SDGs(持続的な開発目標)、企業のパーパス(存在意義)などにもかかわってきます。企業としてどうあるべきかが問われているのです。
そうした意味でも、企業が継続教育を通して従業員の金融リテラシーを向上させることは一つの義務と言えると思います。ぜひ積極的に取り組んでほしいと思います。

◆大江さん
企業型DCの枠組みを超え、従業員自身だけでなく、従業員の家族まで含めてリテラシーを高め、「みんなで幸せになろう」といった例も出てきているのでしょうか。

◆菱田さん
運営管理機関からご依頼をいただく研修でも、最近では、単にDCの話や資産運用の話だけでなく、ライフプラン全体の話、住宅ローンや保険の見直しなどについても話をしてほしいという例が増えています。

◆堀さん
コロナ禍によって新たな教育のスタイルも生まれました。それはオンラインセミナーが非常に増えたことです。
FPによるオンライン個別相談では、従業員の方と一緒に配偶者の方にも参加いただくことが珍しくなくなっています。そこでは、菱田さんも指摘されたように、ライフプラン全体のことや、ローンや生命保険のことも含めて相談に乗るようにしています。企業にとってはこれらの取り組みが福利厚生の一環になっているところもあります。

◆大江さん
一方、継続投資教育を熱心にされている企業の中には、「毎年やっているが、今年のネタ(テーマ)をどうしよう」と悩んでいるところもあるようです。

◆菱田さん
今年はDCの法改正がいくつもありました。これらのポイントを解説するだけでも、テーマになると思います。ほかにも、従業員の方の年齢ごとに、「30代向け」「40代向け」「50代向け」といったセミナーを開催することもできるでしょう。

◆堀さん
株式や為替のマーケットは常に動いています。私はよく「半年後の相場や社会情勢を予測してみてください」といった仕掛けをします。その上で、半年後に答え合わせをするのです。変化の要因は何かを紐解くのは、いい勉強になります。従業員の方が相場観を持ち、金融への関心も生まれ、資産運用に前向きになります。さらに、「また、半年後に来ます」とするとルーチン化もできます。

継続投資教育をこれから実施する
担当者へのアドバイス

◆大江さん
お二人の話をお伺いして、テーマはいくらでもあるということがわかりました。実際に継続投資教育を実施する際に、どのようなハードルがあり、それをどのように越えればいいのでしょうか。

◆堀さん
まずは実施の方法です。最近は集合研修だけでなく、オンラインでも行えるようになりました。コンテンツも紙のもの以外に動画なども活用できます。選択肢が増えているだけに、自社にとってどのようなものがふさわしいのか、運営管理機関や当社のような外部のパートナーと一緒になって企画することが大切になります。
そこで課題となるのが研修の費用です。オンラインの研修であればコストは抑えられますが、対面でのセミナーには対面のよさがあります。そこも各社において検討すべきでしょう。
また、どの企業でも共通の悩みは人材不足です。多くの企業で、DC担当の方は他の業務との兼任です。継続投資教育を充実させたいのだけれど、なかなかやれないという声も多いようです。それらに対応するために、当社では人材を派遣して部門ごとに業務を支援するといったサービスも提供しています。
ただし、人材不足などの問題は担当者だけは解決できません。上席の方や経営層の方なども含め、同じテーブルで話し合う機会をつくり、企業として課題解決に向けて取り組むことが大事だと思います。

◆大江さん
投資教育においても、まだまだ工夫の余地は大きいと感じました。最後に、これから継続投資教育に本格的に取り組みたいと考える担当者の方に、お二人からアドバイスをお願いします。

◆菱田さん
まずは気軽に相談してみてくださいと言いたいですね。私などのような講演やセミナーの講師だけでなく、運営管理機関とも密に連絡を取って、「よくわからないから教えてください」と尋ねればいいのです。
最も大切なのは、従業員の方々に積極的にDCを活用していただくことです。従業員の方々が自分の判断で運用商品を選び、満足してもらえる状態にすることです。「よくわからないから元本確保型」ではなく、わかった上で利用していく。それを教育することが大切です。

◆堀さん
過去に継続投資教育をやっていないまま現在に至っていて、「今さらもうやれない。従業員から何を言われるか」と戦々恐々としている企業もあると思います。私は、そういう企業ほど今こそやるべきだと思います。
とはいえ、いきなりではなく、事前に従業員の方に向き合って説明し、要望などもヒアリングするようにします。その上で、企画から参加してもらうようにすれば、従業員のモチベーションも上がるでしょう。まずは勇気を持って、半歩でもいいので踏み出してほしいと思います。

◆大江さん
これまであまりできていなかった企業も、ぜひ前向きに継続投資教育を始めていただければと思います。
今日はお二人に、いろいろな経験を踏まえてのアドバイスをいただきました。ぜひ今後とも加入者のために有益な情報を届けてください。ありがとうございました。

出演者の氏名・プロフィール

堀 実さん写真

パーソルテンプスタッフ株式会社 第一BPO事業本部
金融事業部 Finansta(フィナンスタ) チームリーダー
堀 実(ほり・みのる)さん

2018年パーソルテンプスタッフ株式会社金融事業部入社。
企業型確定拠出年金制度の日本でのスタート時より、約20年間にわたりDC教育研修業務に従事。導入時や継続投資教育研修で約300社の登壇実績あり。相談先企業の課題やニーズに応えたオリジナルコンテンツを作成し、セミナー、オンラインセミナー、動画制作、個別相談など様々なタッチポイントを通じて、従業員にきちんと届けることを目的に、教育研修の実現に向けたサポートを行っている。
また、BPOサービスを通じてコンサルティングから、業務設計、システム・デジタル化、業務アウトソーシングまでをワンストップで対応して戦略的人事の実現をご支援しています。

菱田 雅生さんm写真

ライフアセットコンサルティング株式会社 代表取締役
菱田 雅生(ひしだ・まさお)さん

早稲田大学法学部卒業後、山一證券株式会社に入社。山一證券の自主廃業後、金融商品や保険商品を売らない独立系FPとして、約25年にわたり、相談業務、原稿執筆、セミナー講師、TV・ラジオ出演などに従事。2008年10月“ライフアセットコンサルティング株式会社”を設立。主な講演テーマは資産運用、確定拠出年金、住宅ローン。確定拠出年金(DC)の導入研修や継続研修の講師歴は約20年。2000年以降の講演回数は累計4344回(2022年7月末現在)。難しい内容でも受講者が楽しみながら聞ける講師力の高さに定評があり、リピートする企業も多い。

大江 加代さん写真

インタビューアー
NPO法人確定拠出年金教育協会 理事兼主任研究員
大江 加代(おおえ・かよ)さん

国内の証券に22年勤務し、一貫してサラリーマンの資産形成に携わる。確定拠出年金には制度開始前より10年以上企業型の制度運営・投資教育に関わった。2013年に夫である大江英樹氏とオフィス・リベルタスを設立、2015年からNPO法人確定拠出年金教育協会 理事に就任、同年7月に立ち上げたiDeCoの情報サイト「iDeCoナビ」は月間10万人以上が利用するiDeCoの金融機関選びの定番サイトとなっている。2019年より厚生労働省 社会保障審議会 企業年金・個人年金部会委員。著書には『図解 知識ゼロからはじめるiDeCoの入門書』(ソシム社)がある。

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