講演レポート DC担当者が知っておきたい2020年
法改正のポイント

年金制度改正法の成立により、公的年金から私的年金まで広範な変更が行われる予定です。そこで、社会保障審議会企業年金・個人年金部会の委員でもある、NPO法人確定拠出年金教育協会の大江加代が、DC担当者が押さえておくべき法改正のポイントを解説いたしました。

※本記事は、2020年9月30日にオンデマンド配信した「企業型確定拠出年金カンファレンス2020」の講演内容を基に構成したものです。

大江 加代さん写真

NPO法人確定拠出年金教育協会 大江 加代さん

今年5月29日に、年金制度改正法が成立しました。より長く多様な形で働くことへの対応を制度化することで高齢期の経済基盤の強化を図ることが改正の趣旨で、大きく5つの改正項目がある中の1つが確定拠出年金(DC)に関するものです。そこで今回は企業型DCの、特に事業主が押さえておきたいポイントについて説明しましょう。

加入者にとって適切な運用商品であるために
商品モニタリングの強化が必要

1つ目は商品モニタリングの強化です。今回の法改正で、2022年10月からは企業型DCの加入者も個人型DC(iDeCo)に同時加入できるようになります。そうなれば、加入者は自社の運用商品とiDeCoの商品を見比べるようになるでしょう。金融機関は顧客獲得競争を繰り広げているので、iDeCoの商品は低コストかつパフォーマンスのよい商品に随時入れ替わっています。果たして、自社の商品ラインナップがiDeCoと遜色がないと言えるでしょうか。特にDCの導入時期が早かった場合、当時はベストだった商品も今や見劣りがするかもしれません。

商品モニタリングの強化

法改正の影響

2022年10月より/企業型DC加入者が規約の定めや事業主掛金の上限を引き下げがなくても、に同時加入可能になる


加入者が自社の商品ラインナップと
の商品ラインナップを見比べるようになる

  投資対象資産 信託報酬
(税込み)
【ご参考】
右記は の商品として提示されている投資信託の代表的な資産クラスのパッシブ型の最も安い信託報酬 
国内株式 0.1540%
国内債券 0.1320%
外国株式 0.0968%
外国債券 0.1540%

出所:「iDeCoナビ」投資信託の手数料を考える 運用管理費用(信託報酬)ランキング

加入者が運用できる商品は事業主(事実上は運営管理機関)から提示されるものに限られるため、商品が適切かどうかは加入者にとってきわめて重要です。DCの運用結果は加入者の責任ですが、その前提条件として事業主は、加入者の利益のみを考慮した商品ラインナップを整え、それが適切な商品ラインナップだと説明できなければなりません。これは法令解釈通知に定められているので、この機会に運営管理機関と対話・協議して、改正法の施行に備えておいたほうがいいでしょう。
なお運営管理機関から提示される商品やコスト、運用実績は2018年5月からインターネットで誰でも確認できます。ただし、往々にして金融機関のホームページでは探しにくい場所にあるので、厚生労働省が一覧化しています。当協会のトップページにもリンクがあるので、ぜひ活用してください。

改正法の内容は自社制度との関連を加味し
個々の加入者の目線に立って伝える

2つ目は加入者への情報提供です。加入者にとってはいろいろ選択肢が増える法改正ですが、知らなければ利用できないわけで、「何ができるのか」という情報を伝えることが事業主の役割です。そこで改正の内容とそれを伝える上でのポイントを見ていきましょう。

目標代替率と退職後年数で考える退職後の生活資金総額

法改正による影響

施行年月 企業型DCに関連する
主な改正事項
2022年
4月
受け取り開始75歳まで可能に
2022年
5月
の加入要件が国民年金被保険者となる
(厚生年金被保険者として働く場合65歳まで可能に)
脱退一時金の要件を緩和(外国籍の方の帰国時等)
企業型DCから通算企業年金へのポータビリティが可能に
2022年
10月
と企業型DCの同時加入可能に
マッチングと加入を個人が選択

加入者にとって増えた選択肢を伝え、機会提供をするのが
事業主の役目

まず2022年4月から、受給開始時期が75歳まで拡大されます。現在は60~70歳なので選択の幅が広がりますが、これを加入者に伝える際には、自社の制度との関連を加味して伝える必要があります。例えば会社の規約として口座管理料が本人負担の場合、受給を遅らせると口座管理料の支払いが増えます。また企業年金が充実した会社だと、DCとDBを同時に受け取ると税や社会保険料にも影響があります。そういった見落としがちなデメリットを特に伝える必要があるでしょう。
22年5月からは今回の改正の目玉でもありますが、個人型DC(iDeCo)の加入要件が国民年金被保険者になります。つまり給与所得者(厚生年金被保険者)として働き続ける限り、65歳までiDeCoに加入できるようになるわけです。iDeCoは掛金が全額所得控除になり、税制優遇を受けながら老後の資産形成ができる制度ですから、このような改正事項を伝えることは従業員のライフプランのサポートになります。
ただし当面(22年10月まで)は多くの企業型DC加入者はiDeCoと同時加入できません。そこで、企業型DCの加入資格が60歳までのプランの場合、60歳以降iDeCoに入れることや60歳で企業型DCの年金を受け取った後で、iDeCoに入ることも可能であること、加えて公的年金を繰り上げ受給すると老後資産を形成する側から受給側になることを選択した者とみなされiDeCoには加入できない、といった加入者の目線に立った、利用する上で必要な情報をプラスαして伝えるとよいでしょう。

脱退一時金の支給要件のほか
企業型・個人型の同時加入の要件も緩和

同じく22年5月には脱退一時金の受給要件が緩和され、外国籍の従業員が短期で帰国する場合、帰国時に一時金で受け取れるようになります。しかも積立金をiDeCoに移さずとも、企業型DCから直接受け取りも可能です(資格喪失から6カ月以内)。ぜひ該当者には退職時に説明して、スムーズな受け取りを促してください。
また転退職の際にDCを持ち運びするポータビリティも、5月から拡充されます。従来、年金資産の移換先は ①転職先の企業型DC、②iDeCoだけでしたが、③通算企業年金への移換も可能になりました。聞きなれない言葉ですが、中途退職等でDBの資格を失った人が企業年金連合会に年金資産を預かってもらい、65歳以降に終身年金で受け取る仕組みです。ただし新たな資産の積み増しはできず、移換時に事務費が徴収されるので注意が必要です。契約先を悩まなくてもいいので、自動移換になりがちな人にはデメリットも伝えた上で検討してもらうとよいでしょう。
そして同年10月には、iDeCoと企業型DCの同時加入要件が緩和されます。従来のような事業主掛金の上限引き下げが不要になり、iDeCoと事業主掛金の合計が企業型DCの限度額に収まるならば、誰でもiDeCoを利用できます。
また、マッチング拠出があったとしても、本人がiDeCoかマッチング拠出かを選択することが可能になります。となると、どちらかを選べるように選択に資する情報を事業主は提供しないといけません。例えば、本人が拠出できる掛金は、マッチング拠出には事業主の掛金額以下という制限があります。よって、事業主掛金が少ない場合はiDeCoのほうが、iDeCoの掛金の上限を超えてくる場合はマッチング拠出のほうが多く拠出できます。さらに事業主掛金が増えて(企業型DCの上限 ―iDeCoの上限)に達したら、両者に差はありません。それ以外にも表にまとめたように違いがいくつもありますので、合わせて情報提供し、本人のベストな選択をサポートしてあげてください。

社員への機会情報の提供

マッチングと同時加入の比較

  マッチング
同時加入
加入者掛金
の上限
事業主掛金の額  
27,500円(13,750円) 20,000円(12,000円)
事業主掛金+加入者(本人)掛金
≦ 55,000円(27,500万円)
口座管理料 会社負担 本人負担
(額は契約金融機関による)
管理する
口座の数
1つ 企業型とiDeCoの2つ
運用商品 会社のプランで
提示されている商品
iDeCoの契約先金融機関により異なり、本人の意思で選択可能

※企業型と確定給付型を実施している場合は、5.5万円→2.75万円、3.5万円→1.55万円、2.0万円→1.2万円であるが、今後変更される可能性あり。

法令解釈通知の改正箇所にも注目し
配布済みの資料なども要チェック

法令以外に、法令解釈通知(ガイドライン)でも改正があります。1つ目は、特に給与内枠・賞与内枠のプランが該当しますが、社会保険や雇用保険などの給付額にマイナスの影響があり得る旨を正確に伝えるべきことが明文化されました。該当プランの事業主は、社員に配布している資料をもう一度確認する必要がありそうです。
2つ目ですが、もともと加入者への教育について法令解釈通知には4つの項目が挙げられています。その1つが老後の生活設計です。そして昨年の「老後資金2,000万円問題」を受けて、平均的な老後の生活水準ではなく、「自身が望む老後の生活水準に照らした老後資金の準備」というように伝えるべき具体的内容が変更されています。継続教育の企画・実施の際には目を通しておくことをお勧めします。
公的年金の補完として、私的年金の重要性は高まるばかり。その中で事業主の果たす役割もますます大きくなるでしょう。なぜなら適切な商品、適時・的確な情報提供が加入者の老後の資産形成に大きく寄与するからです。私たちも制度運営や加入者教育の事例紹介等を通じて、皆さんをサポートしていきたいと思います。

講演者の氏名・プロフィール

野尻 哲史さん

NPO法人確定拠出年金教育協会 理事兼主任研究員
大江 加代(おおえ・かよ)さん

国内の証券会社に22年勤務し、一貫してサラリーマンの資産形成に携わる。確定拠出年金には制度開始前から10年以上、企業型の制度運営・投資教育に関わった。2013年に夫である大江英樹氏とオフィス・リベルタスを設立し、2015年にNPO法人確定拠出年金教育協会の理事に就任。同年7月に立ち上げた「iDeCoナビ」は、月間10万人以上が利用するiDeCo関連情報の定番サイトとなっている。2019年より厚生労働省 社会保障審議会 企業年金・個人年金部会委員。著書に『図解 知識ゼロからはじめるiDeCoの入門書』(ソシム社)がある。

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