事業会社のDC担当者に聞く 加入者教育とサスティナブルな制度運営

制度改正も予定されている中、企業ではどのような運営を進めようとしているのでしょうか。オリンパス株式会社とカゴメ株式会社のDC担当者を招いて、「加入者教育とサスティナブルな制度運営」についてインタビューしました。

※本記事は、2022年1月11日~1月31日にオンデマンド配信した「企業型確定拠出年金カンファレンス2022」の講演内容を基に構成したものです。

パネリスト

◆オリンパス株式会社 HRIS オペレーションズ 徳永 由紀さん
◆カゴメ株式会社 人事部 課長 岩永 健吾さん

モデレーター

NPO 法人確定拠出年金教育協会 理事兼主任研究員 大江 加代さん

徳永由紀さん写真

オリンパス株式会社 徳永 由紀さん

きめ細かな導入教育でDC加入率92%を維持
――オリンパス

◆大江さん
まずはオリンパスの会社概要と退職給付制度からお聞かせください。

◆徳永さん
オリンパスは1919年に設立され、内視鏡、治療機器、顕微鏡など精密機械器具の製造販売を行っています。

当社の退職金制度の歴史をたどると、2003年に代行返上を行い、その後、2010年に確定拠出年金(DC)を導入しました。

当社の退職金制度は3階建てで、3階部分の企業年金のうち20%をDCとして切り出し、残り80%を確定給付年金(DB)という制度設計にしました。当社の定年退職は60歳のため、50歳以上の従業員にはDC導入はせず、100%DBとするとする形での移行措置を取りました。DCに加入を希望しない従業員については、前払退職金も選択できるようになっています。

現在、当社のDB・DC加入対象者は正社員6967人ですが、DC加入者は6410人、前払選択者は557人、DC加入率は92%となっています。DC加入率が高いことに加え、当社のDCは、投資信託の割合が6割と高く、商品選択本数も平均3.8本と分散が進んでいます。

オリンパスのDC制度の位置づけ・概要

要因としては導入時の教育が大きいと考えています。従来、従業員教育は集合研修で行うのが一般的でしたが、DCを導入する際にそれでいいのかという議論になりました。従業員にとっては一度の説明だけですべてを理解できません。また、各拠点で説明会を開催すると時間もコストもかかります。そこで導入時の教育をEラーニングで行うようにしました。EラーニングおよびDC商品説明会の受講を必須とし、その後のWeb申し込みにつなげるようにしたところ、導入時のDC加入率は8割に達しました。

その後は毎年2回、前払からDCへの切替申込を実施していますが、現在のDC加入率は92%となっています。また、新入社員も、ほぼ全員がDCを選択しています。新卒・中間採用者の教育では、動画視聴(全員必須)、Web申込などを実施し、中間採用者については前職からの移換(ポータビリティ)についても丁寧にサポートしています。

オリンパスのDC加入者教育

継続教育にも力を入れています。様々な施策を毎年のサイクルで実施しています。まず春には、3月末時点の「残高のお知らせ」が届きます。また、「メールマガジン」を毎月配信しています。このほか、「Eラーニング」「DCセミナー」を実施しています。Eラーニングやセミナーに参加した従業員からの個別具体的な質問もあるため、FPによる個別相談会もセミナーの同時期に開催しています。

オリンパスのDC加入者教育

コロナ禍では対面セミナーが開催できなかったため、オンラインで実施しました。拠点に関係なく、また気軽に参加できるとあって、参加率が大幅にアップしました。今後も、従業員のためになることにいろいろとチャレンジしながら継続教育を続けていきたいと考えています。

大江加代さん写真

モデレーター 大江 加代さん

デフォルトファンドにバランス型のパッシブファンドを設定――カゴメ

◆大江さん
続いて、カゴメの会社概要と退職給付制度についてお願いします。

岩永 健吾さん写真

カゴメ株式会社 岩永 健吾さん

◆岩永さん
カゴメは愛知県で1899年に創業した食品企業です。農業を基盤に飲料、食料品、生鮮野菜などの事業展開を行っています。企業理念は「感謝・自然・開かれた企業」ですが、この理念に基づく人を大切にする風土も、制度運営の前提になっています。

2002年にカゴメ厚生年金基金を解散し、DC制度を導入しました。全国的に見ても比較的早い段階でDCを導入したことになります。現在、DCまたは前払い退職金の選択制になっています。

当社退職給付制度改正履歴〈1〉

当社は2008年、デフォルトファンドにバランス型のパッシブファンドを設定しました。その理由は、DCの制度の思想として、従業員に運用に対する意識をしっかりと向けてほしいという思いがあります。商品の魅力度を高めるため、運用商品の追加も実施しましたが、DC法の改正に対応し、現在は35本で運営を行っています。2021年にはマッチング拠出制度も導入しました。初年度の加入率は約15%になっています。

当社退職給付制度改正履歴〈2〉

運営体制については、制度検討時は改定専任者1名で進めてきました。制度導入後は検討時の専任者が兼任になりましたが、兼任の事務担当者との2名体制としました。現在は、DC担当4代目として私(兼務)と事務担当者1名(兼務)です。

弊社でのDC制度運営体制

最後に加入者教育についてご紹介します。当社では大きく「定期教育」「常設教育」「不定期教育」の3つの施策を実施しています。定期教育では、まず新入社員が入社した4月に制度概要説明は行うものの、この時点では全員前払いを選択してもらっています。社会人として1年間、自分なりに勉強をしてもらい、翌年の2月のフォロー研修で詳細に制度の説明をします。さらに社外講師による研修などを行い、DCへの移行受付や商品選択を実施します。

新入社員だけでなく、50歳、60歳になる従業員向けにライフプラン研修も行っています。社外の講師により、DCに限らず、税金なども含めて、今後のことを考えてもらう機会にしています。

新入社員と50歳の間のカバーをするのが常設教育と不定期教育の施策です。常設の教育施策では、アーカイブの動画で常時アクセス可能なオンラインセミナーを用意しています。

このほか、主に全社通達で、ニュースレター、モニタリング結果などを提供しています。また、年に1回、前払いからDCへの変更受付も行っているので、この中で制度概要の説明も行っています。不定期教育施策としては、数年に1回、教育を兼ねたDC制度に関するアンケート調査を実施しているほか、FPへの個別相談機会も提供しています。

従業員の中では、オンラインへの抵抗感も低くなってきているので、今後はこの流れを生かした教育施策を展開していきたいと考えています。

若い従業員に関心をもってもらえるよう
説明のタイミングや内容に工夫

◆大江さん
オリンパス、カゴメはともに、DCについて前払いとの選択制になっています。さらに、両社ともDC選択率が高いようです。一般的に若い従業員の方は老後資金を貯めるということに関して意識が低いように思われます。そこでどのような工夫をされているのでしょうか。

◆徳永さん
オリンパスでは入社と同時にDCも加入するというスタイルの退職金制度になっています。そのため、内定者には事前に基金のホームページにあるDCの制度説明の動画を視聴し、理解を深めてもらうようにしています。

オリンパスのDC加入者教育

コロナ以前は入社後のオリエンテーションの時間にその研修を行っていましたが、現在はオンラインで実施しています。その上で、当社のDC加入率や選択状況などのデータも開示し、参考にしてもらいながら加入の意思を確認しています。同時に、新卒入社の皆さんは年金を受け取るまでにたくさん時間があるので、全額定期預金を選ぶのももったいないといった話もしながら、他の商品なども組み合わせて積極的に運用してはどうかといったアドバイスも行っています。

◆岩永さん
カゴメでは、1年目は全員前払いを選択するようになっています。社会人として1年間過ごした後にしっかりと制度の説明をするので、お金の勉強をしてほしいというメッセージをまずインプットします。フォローアップ研修では、前払いとDCの違いや、DCとは商品を運用しながら自分で資産をつくっていくといった根本の考え方を伝えます。そのために、バランス型ファンドを指定運用商品にしているといったことも説明すると、新入社員も理解してくれます。そこから、自分自身ならどうするかと問いかけをすると、DCを選択するほうが長期的にはメリットがあると感じるようです。フォローアップ研修終了後、すぐにDC移行受付を開始しますが、毎年の加入率は約85%となっています。

弊社継続教育の概要(これまで実施している・してきたもの)

◆大江さん
オリンパスもカゴメもDCの加入率が高く、従業員の方の理解も深いと思われます。一方で、多くの企業では、従業員の方に関心を持ってもらうのに苦労されているようです。従業員の方々が関心を持って、学ぶ・知る・行動できるように、どのような工夫をしていますか。

◆徳永さん
オリンパスでは毎月メールマガジンを配信し、常に加入者である従業員に情報提供を行っています。メルマガは正社員全員に一斉に送ります。毎月送るのは、従業員にDCの存在を忘れてほしくないからです。毎月全部は読まなくても、従業員がいざ必要になった時に、メルマガを送ってきている徳永に聞けばいいと思い出してくれればと思っています。Eラーニング、セミナー、FPの個別相談も毎年開催しています。DCだけでなく、お金のこと全般に興味・関心を持ち、行動するきっかけにしてほしいと考えています。

◆岩永さん
制度運営体制の人員にも限りがあります。担当者も兼務です。その中で、最大限できることは何かというと、区切り区切りで必要な情報をしっかりと伝えながら、それ以外のところについては、ここに行けば情報があるということを伝えることだと思います。最近では働き方の改革など、人事制度に関心を持つ従業員が増えています。このタイミングでマッチング拠出制度を導入するというと、DCについても会社が変化しようとしているということが従業員に伝わり、興味関心につながります。

制度の継続、サスティナブルな運営のポイントは

◆大江さん
制度がずっと続いていくためには、社内での担当者の引き継ぎが重要になってくると思います。引き継ぎをする上でのポイントやアドバイスがあればお伺いします。

◆徳永さん
オリンパスでは基金がライフプランセミナーなどの事務局を務めてきました。当社の従業員は、年金イコール基金というような認識があったと思います。ただ、そのため、人事部内に退職金を知っている人間がいなくなるという問題が起きました。そこで数年前から人事部門に業務を移管し、チームで運営を行うようにしました。小さな打ち合わせも必ず双方から参加し、情報を共有しています。

◆岩永さん
担当者を1人にしないことが大事です。1人にしてしまうとナレッジが伝承されなくなります。当社では最低1年間は2人で担当し、引き継ぐようにしています。当社の場合、たまたま2代目が私の上司になります。2代目と4代目が同じ部署にいて、今5代目に引き継いでいるところです。上司はDCに関する造詣が深いので非常に恵まれています。

◆大江さん
両社ともに、まさにサスティナブルな制度運営に取り組んでいますね。2022年にはiDeCo関連も大きな法改正が控えています。加入者に届けなければならない情報も増えると思います。運営する側としてどのような準備を進めていますか。また、課題解決のために必要なことについて考えていることがあれば教えてください。

◆徳永さん
オリンパスでは現在、マッチング拠出を導入していません。事業主掛金のみでDCを運営しています。そのため、当社にとっては2022年12月に予定されている拠出限度額の見直しのほうが、インパクトが大きいです。DBを併用している場合、月額5.5万円から他制度掛金相当額を控除した額となっているため、これを超えてしまう従業員が多いためです。オーバーする分をどうするのか、iDeCoとの併用はどうするのかとなると、オリンパスの退職金制度そのものを大きく見直す必要が出てきます。従業員の説明もしなければならず、対応すべきことがたくさんあります。DBの総幹事会社やDCの運管会社には迅速で的確・丁寧な情報提供とサポートを期待したいです。

今後の対応

◆岩永さん
当社は、iDeCo併用が大きな山場になります。恐らく相当な数の個別の問い合わせが来ると思われます。その対応を誰がするのか。人事部も人員は限られていますし、各事業所の総務部門では対応ができません。すでにアーカイブ動画をいくつかつくっていますが、ここに行けばわかるといったプラットフォームのようなものが必要です。それを一企業がやるよりも、DC業界全体での何らかのフォローがあれば、全国の実務担当の方々が助かるのではないかと思います。

◆大江さん
私どもも「iDeCoナビ」というiDeCoに関わるサイトを運営しています。今のお話を聞いて、プラットフォームづくりのお手伝いもしていかなければならないと感じました。DC制度を利用する方の目線で今後も取り組みを進めていきます。

出演者の氏名・プロフィール

徳永 由紀さん写真

パネリスト
オリンパス企業年金基金 兼務 オリンパス株式会社
HRISオペレーションズ
徳永 由紀(とくなが・ゆき)さん

⼊社後、オリンパス厚⽣年⾦基⾦に配属。⺟体のオリンパス株式会社とグループ関係会社の56歳従業員とその配偶者を対象としたライフプランセミナーの事務局も務める。セミナーや業務を通じ、退職後の従業員とその家族が⼼豊かに過ごしていけるよう丁寧なサポートを⼼掛け、⽇々対応している。2003年には代⾏返上を経験し、確定給付企業年⾦へ移⾏。2010年新たに確定拠出年⾦を導⼊し、DC業務も⼀⼿に引き受け、DBとDC両⽅の実務担当者として業務を遂⾏してきた。長年に渡り企業年⾦に携わってきた経験から、特に若年層の従業員へのお⾦に関する知識や継続投資教育の重要性を痛感し、情報提供をし続けている。2021年8⽉から⺟体オリンパス株式会社HRISオペレーションズ兼務。

岩永 健吾さんm写真

パネリスト
カゴメ株式会社 人事部 課長
岩永 健吾(いわなが・げんご)さん

2007年、カゴメ株式会社入社。農業研究部に所属し、トマトをはじめとした野菜の栽培技術研究を担う。2017年より人事部となり、労務・評価・退職金等の領域を担当。特に、働き方の改革に関わる制度設計・導入と運用の浸透、また、人事システムの整備を実施。2020年10月より現職となり、評価と任用の各領域を主幹。DCでは、継続投資教育の企画設計と運用、および、法改正対応(商品除外実施等)を2017年から現在も担当中。2021年4月にマッチング拠出制度を導入。継続投資教育についてはアーカイブ配信などのオンラインを前提とした施策への移行を実行中。モットーは、”人事経験が短いからこそできる、経営と現場の橋渡し役であること”。

大江 加代さん写真

モデレーター
NPO法人確定拠出年金教育協会 理事兼主任研究員
大江 加代(おおえ・かよ)さん

国内の証券会社に22年勤務し、一貫してサラリーマンの資産形成に携わる。確定拠出年金には制度開始前から10年以上、企業型の制度運営・投資教育に関わった。2013年に夫である大江英樹氏とオフィス・リベルタスを設立し、2015年にNPO法人確定拠出年金教育協会の理事に就任。同年7月に立ち上げた「iDeCoナビ」は、月間10万人以上が利用するiDeCo関連情報の定番サイトとなっている。2019年より厚生労働省 社会保障審議会 企業年金・個人年金部会委員。著書に『図解 知識ゼロからはじめるiDeCoの入門書』(ソシム社)がある。

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