企業DC業務報告書の見直し事業主による企業型DCの業務報告に係る
手続きの見直しについて

企業型DCにかかる業務報告書の見直しが行われ、2022年3月1日から施行されます。 事業主の負担軽減の観点から、報告事項を大幅に削減し、提出方法が変更となりました。 一方で、業務報告書から削除された項目のうち、継続投資教育など事業主に課せられた努力義務については、地方厚生(支)局において確認し、その実施を促していくとされました。
今回の見直しのポイント等について、厚生労働省年金局企業年金・個人年金課の田住全行さんに説明していただきました。

※本記事は、2022年1月11日~1月31日にオンデマンド配信した「企業型確定拠出年金カンファレンス2022」の講演内容を基に構成したものです。

田住全行氏写真

厚生労働省 年金局企業年金・個人年金課 田住 全行さん

業務報告書の記載事項を簡素化、
企業型RKを通じて提出が可能に

企業型DCを実施する事業主には、確定拠出年金法に基づき、毎年、業務報告書を作成して地方厚生(支)局に提出していただいています。この業務報告書は、これまでの制度改正により記載事項が大幅に増えています。その大半は企業型記録関連運営管理機関(企業型レコードキーパー)に確認が必要な項目となっています。そのため、事業主の負担軽減の観点から、業務報告書に係る手続きを見直しすることとしました。

現行、業務報告書の提出については、確定拠出年金法第50条に規定されており、「事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、企業型年金に係る業務についての報告書を厚生労働大臣に提出しなければならない。」となっています。その提出方法は確定拠出年金法施行規則第27条に規定されており、「事業主は、事業年度ごとに、法第50条の報告書を様式第7号により作成し、毎事業年度終了後3月以内に厚生労働大臣に提出しなければならない。」となっています。様式第7号の記載項目は、「1.実施事業所の事業の種類」から「18.規約の備置き・閲覧の状況」まで、多くの記載項目に回答いただき、厚生労働大臣から事務委任を受けている地方厚生(支)局長あて提出していただいています。

2019年12月25日に取りまとめられた「社会保障審議会企業年金・個人年金部会における議論の整理」において、企業型DCの業務報告に係る手続については、「業務報告書の記載事項を簡素化すべきである。また、事業主は企業型記録関連運営管理機関を通じて提出できるようにすべきである。」とし、「また、投資教育等については、業務報告書で実施の有無のみの報告を求めるのではなく、投資教育の内容等を地方厚生(支)局がヒアリング等で継続的に把握して指導に当たる方が効果的であり、指導体制や手法を含めて見直すべきである。運用商品のモニタリング、運営管理機関の評価等も同様である。」との議論の整理がなされました。
これを踏まえ、確定拠出年金法施行規則について所要の改正を行うこととしました。

関係法令(改正後)

確定拠出年金施行規則(平成13年厚生労働省令第175号)(抄)
第1章 企業型年金
(事業主報告書の提出)
第27条 事業主は、法第50条の規定により、事業年度ごとに、次に掲げる事項を記載した報告書を作成し、毎事業年度終了後三月以内に、厚生労働大臣に提出しなければならない。

  1. 企業型年金規約に係る承認番号
  2. 厚生年金適用事業所の名称
  3. 事業年度
  4. 企業型年金加入者等の状況
  5. 事業主掛金及び企業型年金加入者掛金の状況
  6. 返還資産額の状況
  7. 個人別管理資産の状況
  8. 指定運用方法の状況
  9. 企業型年金加入者の資格を喪失した者の状況

2 (略)
3 第一項の報告書の提出は、企業型記録関連運営管理機関を通じて行うものとする。
ただし、事業主が記録関連業務の全部を行う場合にあっては、この限りでない。

見直しのポイントは大きく2つあります。1つ目は業務報告書の記載事項や提出方法が変わること。2つ目はこの業務報告書の見直しに伴い、事業主の皆さまに別途報告をお願いすることです。
業務報告書については、これまで、毎年度、大量の記載項目について回答いただき、それを代表事業主でとりまとめて、紙で提出していただいていました。これを、令和4年3月以降に終了する事業年度からは、記載項目を大幅に削減し、加入者等の状況などの統計数字については、企業型記録関連運営管理機関(企業型レコードキーパー)を通じた電磁的記録での提出に変更します。
また、業務報告書から削除した項目のうち、継続投資教育など事業主に課せられた努力義務の履行状況については、地方厚生(支)局において確認し、その実施を促していくこととします。

継続投資教育など事業主に課せられた
努力義務の履行状況を地方厚生(支)局が確認

企業型DCの運営において事業主が果たすべき役割・責任について、確定拠出年金法令では、様々な規定が設けられています。

ご承知のように、企業型DCは、加入者等の年金資産の運用方法を自ら選定し、その運用結果に基づいて給付を受け取る仕組みであり、加入者等が運用の責任を負う制度ですが、事業主には、加入者等が適切に資産運用を行うことができるよう運営管理機関の選任・監督、運用商品の選定・モニタリング、投資教育等を行う重要な役割と責任があります。

第18回社会保障審議会企業年金・個人年金部会(2020年12月23日)資料
企業型DCにおいて事業主が果たすべき役割・責任
企業型確定拠出年金(企業型DC)の運営において事業主が果たすべき役割・責任について、確定拠出年金法令では様々な規定が設けられている。

役割・責任 内        容
①実施主体
(法第2条第2項)
企業型確定拠出年金は、「厚生年金適用事業所の事業主が」、「実施す る年金制度をいう」とされており、実施主体は事業主である。実施に 当たっては、労使合意を要する(法第3条第1項)。
②規約周知義務
(法第4条第3項)
事業主は、承認を受けた規約の内容を、使用する厚生年金被保険者に 周知させなければならない。
③運営管理機関への
業務の委託とその評価
(法第7条)
事業主は運営管理業務の全部又は一部を運営管理機関に委託できる が、少なくとも5 年ごとに、運営管理業務の実施に関する評価を行い、 運営管理業務の委託について検討を加え、必要があると認めるときは、 運営管理機関の変更その他の必要な措置を講ずるよう努めなければな らない。
④投資教育義務
(法第22 条)
事業主は、加入者等に対し、資産の運用に関する基礎的な資料の提供 その他の必要な措置を継続的に講ずるよう努めなければならない。
⑤運用の方法の選定
及び提示
(法第23 条)
運用商品の選定及び提示は、多くの場合、運営管理機関によって行わ れるが、「加入者等が真に必要なものに限って運用の方法が選定される よう、確定拠出年金運営管理機関と労使が十分に協議・検討を行って 運用の方法を選定し、また定期的に見直していくこと」(法令解釈通知) と、事業主の関わりを示している (指定運用方法についても同様)。
⑥忠実義務
(法第43 条第1項)
事業主は、加入者等に対し、資産の運用に関する基礎的な資料の提供 その他の必要な措置を継続的に講ずるよう努めなければならない。
⑦個人情報保護義務
(法第43 条第2項)
事業主は、加入者等の個人に関する情報を保管し、又は使用するに当 たっては、その業務の遂行に必要な範囲内で当該個人に関する情報を 保管し、及び使用しなければならない。
⑧禁止行為
(法第43 条第3項)
事業主は、自己又は加入者等以外の第三者の利益を図る目的をもって 運営管理業務の委託契約又は資産管理契約を締結してはならない。
⑨禁止行為
(法第43 条第4項)
自ら運営管理業務を行う事業主については、自己又は加入者等以外の 第三者の利益を図る目的をもって、特定の運用の方法を選定してはな らない。

(注1)②と④~⑧については、個人型DCについても適用・準用されており、国民年金基金連合会が果たすべき役割・責任として位置づけられている。

(注2)「法」・・・確定拠出年金法(平成13 年法律第88 号)「 法令解釈通知」・・・確定拠出年金制度について(平成 13 年8月 21 日年発第 213 号)

運営状況の確認に係る事務フローは次のとおりです。
1規約1事業所の場合、まず、地方厚生(支)局では、厚生労働省本省からの通知に基づき、対象事業所の選定を行います。対象事業者が決まると、対象事業所あて通知をさせていただきます。通知が届いた事業所は、地方厚生(支)局のホームページからエクセル版の回答様式をダウンロードしていただき、いくつかの質問にお答えいただき、各地方厚生(支)局が指定するメールアドレスへご回答をお願いします。

1規約2以上事業の場合、地方厚生(支)局からの通知は規約の代表事業主あて通知をします。代表事業主は、自身の会社の状況をお答えいただくとともに、同じ規約で企業型DCを実施する事業所へメール等でご案内いただき、運営状況の確認にご回答いただくようお願いします。また、代表事業主は全事業所分を取りまとめていただき、各地方厚生(支)局が指定するメールアドレスへご回答をお願いします。

事務フロー(1規約2以上事業所)

実施初年度(令和4年度)のスケジュールは次のとおりです。

実施スケジュール(予定)

時期メド 項        目
令和4年6月末まで ●地方厚生(支)局にて対象事業所の選定
●運用関連運営管理機関宛て対象事業所の情報提供
8月末まで ●対象事業所の事業主宛て通知の発出準備
●「運営状況報告書」のホームページ掲載
9月から ●「運営状況報告書」の提出依頼、照会対応
11月末 ●「運営状況報告書」の提出期限
12月から ●未提出の実施事業主に対する対応
●回答の取りまとめ
令和5年3月末まで) ●厚生労働本省への報告

◎実施時期の詳細については「厚生労働本省への報告」を除き、地方厚生(支)局において柔軟に設定し対応。
◎次年度以降についても同様のスケジュールにより対応。

地方厚生(支)局から事業主の皆さまにお伺いする運営状況の確認事項は大きく5つあります。内容については一部変更する場合もありますが、今現在の「案」として見ていただきたいと思います。

運営状況の確認事項(案)

  1. 実施事業所に関する事項
  2. 継続投資教育に関する事項
  3. 運営管理機関の定期的な評価に関する事項
  4. 運営商品のモニタリングに関する事項
  5. 個人別管理資産の移換に関する事項

「2.継続投資教育に関する事項」では、現在の業務報告書では実施の有無のみをお伺いしていますが、実施状況に加え、継続投資教育の手法、継続投資教育の内容などについてもお伺いしたいと考えています。
「3.運営管理機関の定期的な評価に関する事項」、「4.運営商品のモニタリングに関する事項」、「5.個人別管理資産の移換に関する事項」についても、実施状況、実施方法などについてお伺いします。

運営状況の確認については、地方厚生(支)局において、まずは事業主における日頃の取り組みの状況を把握することから始めることとしていますので、本事務へのご協力をお願いいたします。

出演者の氏名・プロフィール

松谷 博司氏写真

厚生労働省年金局企業年金・個人年金課
企業年金・個人年金普及推進室長補佐
田住 全行(たずみ・まさゆき)さん

1968年、静岡県生まれ。入省後、年金局、保険局、大臣官房人事課、近畿厚生局などを経て、2019年4月から九州厚生局健康福祉部保険年金課長。2021年4月から現職。確定拠出年金制度の普及に関する施策の企画立案業務に従事する。

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