パネルディスカッションレポート 担当者が知っておきたい‼ 加入者のDCへの
関心を高める効果的な投資教育の在り方

株式会社関電工はDC加入者への投資教育の取り組みを強化し、好成果を示しています。そこで同社のDC担当者である労務人事部 労務チーム 主任の高田浩則さんを招いて、フィデリティ退職・投資教育研究所 所長の野尻哲史さんにも加わっていただき、「加入者にDCに対して関心を持ってもらえて、効果も高められる投資教育とは?」をテーマにパネルディスカッションを行いました。

※本記事は、2019年7月4日に実施した「企業型確定拠出年金カンファレンス2019」の講演内容を基に構成したものです。

パネリスト

株式会社関電工 労務人事部 労務チーム 主任 高田 浩則さん
フィデリティ退職・投資教育研究所 所長 野尻 哲史さん

モデレーター

NPO法人 確定拠出年金教育協会 理事兼主任研究員 大江 加代さん

継続教育は「若年層向け集合研修の見直し」から
取り組んだ

◆大江さん
私ども確定拠出年金教育協会は毎年、DC担当者を対象にアンケート調査を行っていますが、その中で「最も悩み・課題と思っていること」を聞くと、最も多い回答が「加入者の無関心」で、これが約半数を占めます。次に多かった回答が継続教育に関するもので、2018年5月のDC(確定拠出年金)法改正を受けて、1割くらい増えました。

そこで本日は高田さんと野尻さんから、すぐにでも使える投資教育のヒントについていろいろお話しいただきたいと思っています。それでは高田さんから、よろしくお願いします。

◆高田さん
当社の退職給付制度は退職一時金、DB(キャッシュバランスプラン)、DCの3本立てで、DCが占める割合は3~4割程度(2019年3月末時点)。2004年4月からこの構成になりました。DCについては全従業員が加入しており、前払いとの選択制ではありません。掛金は全加入者一律で、マッチング拠出はまだ導入していません。

当社が抱えていた課題は、意識的にDCを選んだ人はいないので基本的に関心度が低いこと。例えば加入者Webのアクセス率を見ると、2011年度は4.3%と低水準。以後、いくぶん改善傾向ではあったものの、おおむね低調に推移してきました。

また、過去1年間に何も行動しなかった人が全体の8割くらいで、特に10代・20代の約9割は「何もしない」無関心・低関心層でした。そこで2016年度末ごろから、少しずつ継続教育への取り組みを強化してきたわけです。

高田 浩則さん

高田 浩則さん

継続教育の取り組みの強化に当たっては、なぜ無関心、低関心かというところから考えはじめました。

まず、当社では定期預金を初期設定商品(現在の「指定運用方法」)にしていて、定期預金の採用者は定期預金を100%の割合で加入登録をしています。そのため、「最初の掛金が入るまでにもう1度考えてください」というアナウンスはしていても、そのまま放置されがちだったのです。

また、当社は現場作業が多く、社有パソコン非貸与者の割合が高いという状況もありました。そして、集合研修の開催が難しいということです。所属する事業所と実際の就業場所が異なるため、日程調整がきわめて困難だったのです。

そこで最初に取り組んだのは、若年層向け集合研修の見直しです。集合研修の開催が難しいため、他の技術・技能の研修の中で時間をもらいながら、少しずつ研修の機会を増やしていきました。

関電工の若年層向け集合研修の見直し

2017年度からは、4月の入社直後に行う定期採用者向け導入研修の1カ月後にフォロー研修を実施しており、また入社4年目・7年目をめどに部門・階層別の専門研修を行っています。

通年採用者、中途採用者に対しても入社時にDCの導入研修を行い、その後は新任主任研修や、50歳時および56歳時のライフプラン研修につなげていくようにしてきました。それ以外にも労働組合主催の会議などで時間をもらいながら、研修時間の確保に努めています。

◆大江さん
研修回数を増やす努力の一方で、研修の中身はどう変えていったのですか?

◆高田さん
定期採用者向けの研修は、講義のほか動画、ワークを交えた手法に変えるとともに、加入者各自が「自分ごと」として行動できるような「意識づけ」を心がけています。

関電工の定期採用者研修の見直し

まず4月に行う導入研修は、以前は運営管理機関に委託して150分くらいの講義を行っていましたが、現在は初めに会社が退職給付制度の内容と制度にかける思いを伝え、自社制度に沿ったライフプランについても説明します。次いで、運営管理機関による「資産運用の考え方」の説明と商品リストの配布があったあと、「商品選択ワーク」に移り、加入者自ら運用商品を選んでもらいます。最後に、会社が研修の要点をまとめて、導入研修を終えます。

そして5月のフォロー研修は「導入研修の振り返り」から始めて、自分で選んだ商品の再確認もしくは変更や、スマートフォンを使った加入者Webのログインや機能紹介などといった実践的な事柄を、全て加入者の手で行うようにしています。

加入者Webアクセス率は年々改善、
無関心・低関心層の割合も減少していった

◆大江さん
4月の研修で全員に運用商品を選んでもらい、5月にもう一度フォロー研修があって、このときにスマホでのログインなどを実体験する。そうした研修の積み重ねによって、どんな効果があったのでしょうか?

◆高田さん
私たちが目標としたのは、加入者Webのアクセス率を向上させてDC制度への関心度を高めることで、そこに特化して進めてきました。

関電工の投資教育の見直しによる効果検証

その結果、2011年度に4.3%だったアクセス率が、2018年度には12.3%にまで向上しました。また、無関心・低関心層の割合も、2011年度に85.7%だったのが2018年度には62.2%まで減り、特に10代・20代については94.8%から58.1%にまで改善しました。

それに伴って元本確保型商品の選択率が下がり、商品数も4~5種類に分散されるという、意図しなかった効果も生まれています。

◆大江さん
2回の商品選択のプロセスが、DCを「自分ごと」としてとらえる意識づけにも貢献しているわけですね。野尻さん、いかが思われますか?

◆野尻さん
「すごい!」と思った話がいくつもありました。1つは、導入時点で2回、4年目と7年目に各1回と、20代で4回の集合研修を受けるということです。やはり早めの研修が大事で、若い層に合計4回実施できるのは素晴らしいと思いました。

野尻 哲史さん

野尻 哲史さん

それと「商品選択ワーク」ですね。見方によっては半強制的な商品選びですが、そこを出発点にすることは大事で、これは企業年金の加入者を増やす有効な方法として、イギリスでも広く使われています。

もう1つ、スマホによる加入者Webアクセスは今の時代やらないほうがおかしいくらいですが、その効果がはっきり出ているのもすごいと思って聞いていました。

DCが「自社の制度」として認識してもらうことが
加入者のためになる

◆大江さん
高田さんに継続教育の運営面についてうかがいたいのですが、継続教育を行う上でさまざまな障害要因が指摘されていますが、関電工さんにとって最大のネック・課題は何でしたか?

◆高田さん
継続教育に関する取り組みで、最も力を入れたのは「担当者の意識転換」です。継続教育は事業主の努力義務という面も多分にありますが、そもそも「DCは誰のための制度か」をまず認識して、そのためには何をすべきかを改めて考え直すところから始めました。

その結論が、加入者にDCを「自社の制度」として認識してもらおうということです。そこで研修においては、DCの教育だけで終わることなく、休職、短時間勤務、社宅制度といった福利厚生全般や、健康保険組合の事業などもあわせて説明するようにしています。もちろん自社の制度ですから自社の講師を立てて、資料も自社の制度に則して内製化を進めているところです。自前の制度だということがわかると、従業員の関心も一段と高まるようになりました。

ちなみに2015年度には5回の集合研修のうち、自社の講師が関わったのは2回だけでしたが、2018年度は合計17回実施したうち、13回は自社の講師が関与し、DC以外の制度も含めた内容になっています。

◆大江さん
それはすごい取り組みですね。ちなみに関電工さんと労働組合との関係はどんな感じですか?

大江 加代さん

大江 加代さん

◆高田さん
実は私、業務の中で労働組合と交渉する機会が多いのです。労働組合が独自で実施している研修の際に年金制度の説明機会を作ってもらいました。2016年に初めて自社講師による研修を実施したのも、労働組合から時間をもらえたのがきっかけです。

また、労働組合の役員は若い組合員にとっての「よろず相談窓口」でもあるので、その役員たちに会社の制度について伝え、DCの相談も受けてもらえるよう働きかけています。

◆大江さん
なるほど! 野尻さんはこうした取り組みについてはいかが思われますか?

◆野尻さん
「関電工さんはすごいな」と思いながら、メモをいっぱい取っていました(笑)。大事なのは、DCが自社の制度の1つであることをきちんと伝えようとされていることではないでしょうか。また、継続教育の実施には数々のネックがあるのはよくわかりますが、その中で「今できること」にきちんとフォーカスされていることがよいと思いました。

◆高田さん
実は私たちも、目新しいことはあまりやっていないんです。従来の研修方法や資料の配り方を少し変えるだけでも反応が返ってくるので、励みになります。次はもう少しいいものを、と考えて今できること何かをやってみる。本当それだけでいいと思っています。

◆大江さん
そこで野尻さんにうかがいたいのですが、DCの継続教育をさらに一歩進める上で何かヒントはありますか?

◆野尻さん
私どもは毎年アンケート調査を繰り返していますが、いま注目しているポイントの1つは、お金の情報を入手する手段で、とうとうテレビの情報番組がトップの座から落ちてしまいました。1位はSNSで、20代だけで見ると断トツのトップです。これをDCの世界でどう使えばいいか私にもまだわかりませんが、「SNSが資産形成のツールになるわけがない」と言っている時代ではないように思います。

実はアメリカやイギリスの金融教育について調べる機会があったので、その中からいくつかご紹介しましょう。

1つは、アメリカの「クオリティマーク」という活動です。これは、民間機関が作ったお金に関する啓発資料をヤングマネーという第三者がレビューし、認証する制度です。認証された資料にはクオリティマークが付与され、その資料は誰でも使っていいのですが、2年間の賞味期限があって2年経つと自動的に消されます。現在は40例くらいがホームページに載っているようです。こういう誰もが共通して使えるデータやツールがあったらいいと思います。

それともう1つ、イギリスでは「ペンション・ワイズ」という制度がスタートしました。これは、加入者がDCの資産からお金を引き出すときに政府が無料で投資ガイダンスをするというもので、最大45分間の無料サービスが受けられます。そこまでしろとは言いませんが、企業でも何かできることがあるのではないでしょうか。

◆大江さん
確かに皆さんが自由に使えるような資料やサービスがあれば、投資教育がもう1段上に進められそうですね。本日は高田さん、野尻さん、ありがとうございました。

出演者の氏名・プロフィール

◆パネリスト◆ 高田 浩則(たかだ・ひろのり)さん
株式会社関電工 労務人事部 労務チーム 主任
2012年より労務人事部に所属。電気工事、情報通信工事、土木工事、空調工事などの企画から設計・施工・リニューアルおよびメンテナンスを展開する総合設備企業、関電工にて長年DC業務に携わる。2004年にDC制度を導入した同社において、DC制度の認知を広げ社員の活用を促すことを目的に2016年から継続投資教育の取り組みを強化。「社員に近い目線で他の福利厚生を含めた横串で話ができることが自社で継続投資教育を行う最大のメリット」とし、労務人事部として関われるあらゆる集合研修の機会を活用して、DCを少しでも研修内容に織り込むよう工夫をしている。また、継続投資教育の実施後は効果検証を丁寧に行い、特に若年層加入者の意識改善で成果をあげている。

◆パネリスト◆ 野尻 哲史(のじり・さとし)さん
フィデリティ退職・投資教育研究所 所長
国内外の証券会社調査部を経て2006年からフィデリティ投信株式会社に勤務、2007年より現職。各種アンケート調査をもとに投資家動向を分析し、資産運用に関する啓蒙活動を行っている。結果等は資産運用
NAVI(https://www.fidelity.co.jp/fij/invest_navi/)で公開。CMA、証券経済学会・行動経済学会などの会員。著書には『定年後のお金 寿命までに資産切れにならない方法』(講談社+α新書)、『脱老後難民 英国流資産形成アイデアに学ぶ』(日本経済新聞出版)、『老後難民』『日本人の4割が老後準備資金0円』(講談社+α新書)、『貯蓄ゼロから始める安心投資で安定生活』(明治書院)など多数。

◆モデレーター◆ 大江 加代(おおえ・かよ)さん
NPO法人 確定拠出年金教育協会 理事兼主任研究員

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