パネルディスカッションレポート 加入者に投資信託への関心を持ってもらうための
投資・資産形成とは?

「第1回・企業型確定拠出年金カンファレンス」では、実際に企業内でDCの制度運営を担当している、株式会社ニチレイ人事総務部の大野 真さんを招いて、DCの投資教育のあり方を考えるパネルディスカッションが行われました。ニチレイグループの事例を通して、投資・資産運用をどう考えればよいのか、考えてみたいと思います。

※本記事は、2018年7月19日に実施した「第1回・企業型確定拠出年金カンファレンス」のパネルディスカッションの内容を元に構成したものです。

パネリスト

株式会社ニチレイ 人事総務部 労務管理グループリーダー 大野 真さん
フィナンシャル・ウィズダム 代表 山崎俊輔さん

モデレーター

NPO法人 確定拠出年金教育協会 理事兼主任研究員 大江加代さん

ニチレイグループの退職給付制度は
7つのコースから選択

DCの継続教育に熱心な企業として評価されているニチレイグループ。
いったいどのような退職給付制度なのでしょうか。

◆大野さん
ニチレイグループの退職給付制度には7つのコースがあります(下図参照)。ただし、⑥と⑦のコースはDC制度移行時に在籍していた社員しか選べませんので、実質は①~⑤のコースから選ぶことになっています。

ニチレイグループの退職給付制度の選択コース

確定拠出年金(DC)・前払退職手当・退職時一時金の併用プラン

  DC 前払退職手当 退職時一時金
①全額DCコース 100%
②DC8割コース 80% 20%
③DC2割コース 20% 80%
④DC1000円コース 1000円 ほぼ100%
⑤全額前払コース 100%
⑥退職時一時金コース(DC) 20% 80%
⑦退職時一時金コース(前払) 20% 80%

※⑥⑦のコースは制度移行時在籍の社員のみ選択可

DCと前払退職手当の割合をどうするかを決めてコースを選びます。全額をDCにすることも、全額を前払退職手当にすることも、またはDCと前払退職手当の併用にすることも可能です。

なお、コースは年に1回変更ができます(ただし、DCを含むコースから⑤の全額前払退職手当のコースへの変更、退職時一時金を含むコースから他のコースへの変更はできません)。

例えば、教育費がかかる時期にはDCの掛金を減らして手元にキャッシュを欲しいという方もいれば、DCの掛金を増やして老後資金に回したいという方もいます。加入者がそれぞれライフステージにあわせてコースを変更できる制度設計となっています。

ニチレイのDC制度の導入が完了したのは2011年ですが、DC制度の開始以降、加入者への継続教育を毎年実施しています。基本的には加入者全員参加の集合型研修を実施しています。全国に事業所が100以上ありますので、すべての事業所の研修が終わるのに2〜3カ月かかります。

基本的に研修は就業時間内に実施しています。工場など、交代制勤務を採用している事業所では、1日に2~3回、同じ内容の研修を実施し、全員が受講できるようにしています。また、研修の進行は、開催する事業所の管理部門が担っています。

大野 真さん

大野 真さん

課題は「無関心層」と「若年層の保守的行動」

このように継続教育を実施するなかで、浮き彫りになってきた課題があると大野さんは言います。それは、「無関心層の存在」と「若年層の保守的行動」の2つです。

◆大野さん
ニチレイグループのDC加入者の運用利回り分布状況を見てみると、年利回りが0~0.5%という加入者が全体の約30%と、突出して多いのです。これは、定期預金や保険など「元本確保型」の商品しか運用していない方々です。

「元本確保型でOK」と意志を持ってこうした行動をとっているであれば問題ないのですが、実態は「よくわからないけど、とりあえず元本確保型を選べば問題ないだろう」と無関心・無理解のまま選択をしている人(無関心層)が多いのではと考えています。

また、20代の若年層が保守的な選択をしていることも問題視しています。20代は掛金の7割を元本確保型に配分していることがわかりました。これでは定年まで運用を続けても、老後資金を大きく増やすことはできません。

◆山崎さん
投資家として成熟するには、まだ投資資金が小さい金額のうちに、ちょっと儲けた経験、ちょっと損した経験をすることが欠かせないと思います。そこは投資教育によって、加入者が積極的に投資をする方向に背中を押してあげたいですね。

山崎俊輔さん

山崎俊輔さん

◆大江さん
定年時にDCの運用資産の金額を見て、「こんなはずじゃなかった」と思っても遅いですからね。

ニチレイグループでは、こうした無関心層、保守的な若年層に響く
アプローチを意識した継続教育を行っていると大野さんは続けます。

◆大野さん
2017年度は、人生100年時代を見越して、DCがライフプランを考える上でなくてはならないことを伝え、DCとともに老後の資産形成となる財形貯蓄や持株会など企業の福利厚生についても一緒に説明する研修を開きました。

そこで講師を務めたファイナンシャルプランナーの方に、他の企業に比べて「恵まれた福利厚生ですよ」と話していただけたおかげで、より多くの加入者が自社の制度により関心を持ち、DCについてあまり理解していなかった加入者にも自分のライフプランにDC制度をどう活かすのかという点を考えてもらうことができた研修になりました。

さらに研修の後、希望者にはファイナンシャルプランナーによる個別相談が受けられるようにしています。DCだけに限らず保険や住宅ローンの見直しといった、加入者一人ひとりのライフプラン・マネープランに合ったアドバイスが受けられるので、加入者にも好評です。

◆大江さん
DCの説明だけに終始せず、企業が提供する福利厚生の全体についてきちんと伝えるということですね。数年前からグローバル企業、あるいは「いい人材」の確保に重きを置く大手企業は、同様の取り組みをされています。

大江加代さん

大江加代さん

◆山崎さん
こういった研修に対するアプローチの方法は2つあると私は思います。1つは共通するテーマで3〜5年に1回、全社的に行うアプローチ。もう1つは世代別的なアプローチです。例えば入社1年目で聞いてもわからなかった内容が、5年目にもなると理解度は大きく変わります。あるいは30歳、40歳、定年直前というタイミングで学び直しの研修があると、自分のライフステージも変化していますので、無理なく理解を深めていけると思います。

金融リテラシーをインプットしてからの
投資教育を心がける

無関心層や保守的な若年層にどうアプローチしていくのか。
ニチレイグループの取り組みはユニークであり、徹底されています。

◆大野さん
まず、一方的なインプットの研修は無関心層には響かないと思いますので、双方向性を意識した研修を心がけています。加入者の手元に「取引状況のお知らせ」の書類が届くタイミングで開催し、そのお知らせを研修のときに持ってくるように声をかけています。そうして1年に1回くらいは老後資産がいくら貯まっているか、確認してもらうのです。

研修の場では、参加者にスマホを使って、現在の資産配分のままだと定年までにいくらになるか、実際にシミュレーションしてもらいます。非常にリアルな切迫感があり、自分ごととして真剣に研修を受けてもらえます。

◆山崎さん
今どきのスマホは、ログインすればシミュレーターが使えて、簡単に金額が出るようになっています。その使い方を伝えること自体が投資教育になるのだとすぐには結び付かないかもしれませんが、「こうしてIDとパスワードを取得し、こうすればログインできて、こんな情報がわかるんだよ」ということを教えることは、とても大切です。「WEBサービスの使い方講座」のようなプログラムを用意し、研修の中でこうした内容に時間を割いていいと思います。

◆大野さん
また、新入社員向けの研修も行っています。入社して間もない新人に退職金の話をしても、「当事者意識が感じられない」のが実情です。また、投資信託や債券も知らなければ、定期預金を利用したこともないという人もいます。

そこで2015年度からはDC制度の説明をする前に、金融リテラシーをインプットするようにしています。まず初日には、「株式とは何か?」から始まる、社会人として必要な金融知識の解説を1時間半ほど行っています。そして翌日にDC制度の説明をする、という流れにしています。

これまで取り組んできた投資教育の効果は着実に上がってきていると
大野さんは言います。

◆大野さん
新入社員研修で金融リテラシー教育を実施してから、元本確保型の商品のみを購入している加入者の割合が1割ほど少なくなりました。

また、継続教育後には、積み立ててきた資産の商品構成を変更する「スイッチング」の件数や金額が増加しています。また、全額をDCに回すコースに選び直す加入者も増えています。

加入者はDCをどう考えるべきなのか。大野さんは最後に
パネルディスカッションをこう締めくくりました。

◆大野さん
人生100年時代が始まり、働く期間も延びていきます。公的年金の受給開始年齢も将来、さらに引き上げられる可能性もあります。そんな状況下で、DCの運用を放ったらかしにしたままで、いざ定年、老後を迎えたときに、「こんなはずじゃなかった…」という事態に陥ることは悲しいことです。加入者のキャリアプラン、ライフプランを見直すなかで、DCをどう位置づけて、資産形成の手段としていくか。そのための一助として継続教育をしていくことが大切だと考えています。

出演者の氏名・プロフィール

◆パネリスト◆ 大野 真さん
株式会社ニチレイ 人事総務部 労務管理グループリーダー
2001年より人事総務部。加工食品事業や低温物流事業など、幅広い事業を展開するニチレイグループにて長年確定拠出年金業務に携わる。2011年4月にDB(キャッシュバランスプラン)を全廃して確定拠出年金へ移行。加入者への周知・理解を徹底するために、制度変更、新制度の掛金選択、過去分の清算の各段階に、全国100カ所あまりの事業所をまわり説明会を実施。事業主責務を果たすため、2014年からは毎回内容を見直しながら継続投資教育を実施。直近では「LIFE DESIGN」人生を見つめ直そうをテーマに、「働き方改革」や「健康経営」という経営・社員共に響く切り口で工夫を凝らす。

◆パネリスト◆ 山崎俊輔さん
フィナンシャル・ウィズダム代表、企業年金コンサルタント、ファイナンシャルプランナー、
1級DCプランナー
企業年金研究所、FP総研を経て独立。商工会議所年金教育センター主任研究員、企業年金連合会調査役DC担当などを歴任。専門は、退職金・企業年金制度と投資教育。論文「個人の老後資産形成を実現可能とするための、退職給付制度の視点からの検討と提言」にて、第5回FP学会賞優秀論文賞を受賞。早くから老後に備える重要性を訴え、投資教育、金銭教育、企業年金・公的年金の知識啓発について執筆・講演を中心に精力的な活動を行っている。日本経済新聞電子版に週刊連載のほか、東洋経済オンライン、PRESIDENTオンライン、All Aboutほか12本のコラム連載を抱える人気FPのひとり。近著に『読んだら必ず「もっと早く教えてくれよ」と叫ぶお金の増やし方』がある。

◆モデレーター◆ 大江加代さん
NPO法人 確定拠出年金教育協会 理事兼主任研究員

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