事業会社のDC担当者に聞く 従業員の関心を高める継続投資教育とは

継続教育の内容や方法・手続きといったことを、一つひとつ従業員の視点に立って構築しているセコム株式会社と前田建設工業株式会社。そのDC担当者を招いて、「従業員の関心を高める継続投資教育」についてインタビューしました。

※本記事は、2020年10月2日にオンデマンド配信した「企業型確定拠出年金カンファレンス2020」の内容を基に構成したものです。

DCご担当者

◆セコム株式会社 人事部企画・評価グループ主務 加藤 雄作さん
◆前田建設工業株式会社 経営革新本部 人材戦略部
 ヘルスマネジメント戦略グループ主査 青山 佑紀さん

インタビュアー

NPO法人 確定拠出年金教育協会 理事兼主任研究員 大江 加代さん

資料は紙媒体で加入者全員に配布し
マッチング拠出の申請に「希望しない」ボタンを新設

◆大江さん
まずはセコムの会社概要と退職給付制度からお聞かせください。

◆加藤さん
セコムは1962年に日本警備保障という名前で、国内初の警備会社として発足しました。事業はセキュリティ、防災、メディカル、保険、地理空間情報サービス、BPO・ICT、不動産と多岐にわたり、海外でも積極的に事業展開しています。

セコムグループの確定拠出年金制度

当社の退職金年金制度はDCとキャッシュバランス・プランの2本立てで、それぞれ30%と70%の割合です。2020年3月末現在、加入者数は2万348人、運用商品は24本です。

加藤 雄作さん写真

加藤 雄作さん

◆大江さん
加藤さんは継続教育にどのように取り組み、どんなことに苦労されていますか。

セコムによる継続教育の取り組み

2014年 ●管理者webのID・パスワードを全員へ配布
●社内報に加入者webの取説漫画を掲載
2015年 ●マッチング拠出申請に「希望しない」選択肢を追加
2018年 ●「確定拠出年金通信」を紙媒体で全員へ配布
●マッチング拠出の募集に合わせてID・パスワードを全員へ配布
●運用商品を2本追加
●労働組合が主催の集合研修を実施
2020年 ●運用商品を2本追加
●本社ビルで首都圏勤務者を対象に集合研修を実施

◆加藤さん
当社には、24時間365日の交代勤務で働く社員が数多くいます。また事業所は全国約700カ所に散らばっているため、集合研修の実施は困難でした。そこで2014年に加入者Webを開設してID・パスワードを全員に配布するとともに、Webの機能や利用方法を漫画にした資料を社内報に掲載しました。
それによってアクセス率は20%まで増えましたが、ID・パスワードの配布について6割近くの社員が「受け取った記憶がない」という実態であることが労働組合に協力してもらったアンケートで判明しました。そこで従来はイントラネットに掲載していた運営管理機関発行の確定拠出年金通信を、2018年には紙媒体で加入者全員に配布することにしました。
紙媒体だと手数も費用も増えますが、Webを見に行かない人にも届き、持ち帰って家族と一緒に見ることもできるため、リマインダーとして機能していることもわかりました。
また2015年にはマッチング拠出の申し込み方法を変更し、従来は拠出したい人だけがWebで拠出希望額を申請する形でしたが、新たに「希望しない」ボタンをつくって、全員に回答するよう促しました。
さらに、例えば①年齢、②拠出金額、③目標利回りを入力すれば、給与で受け取る場合とマッチング拠出した場合の受給額の差を計算できるワークシートを用意し、手軽にシミュレーションすることでマッチング拠出のメリットを感じてもらっています。
あるいは、労働組合から比較的利回りの高い定期預金の提案があり、労使で協議して新たに2本を採用しました。おかげでその金融機関とは良好な関係ができて集合研修を担ってもらうことになり、今年から手始めに原宿の本社ビルで実施しました。今は残念ながら新型コロナの影響で中断していますが、アンケートなどから一定の効果を感じています。

◆大江さん
マッチング拠出について全員に意思表示をさせる方式にしたことで、どのような効果がありましたか。

◆加藤さん
マッチング拠出を申し込まない場合でも回答するとなると、いったん立ち止まって、税制優遇などについて理解してもらえます。それがDCやライフプランを考えるきっかけになり、5年前と比べマッチング拠出の利用率は2%から35%に、加入者Webへのアクセス率も年平均2%から5%に、投信選択の比率も39%から45%に増加しました。

制度の説明資料を加入者目線で作り直し
従業員の投資教育にはボードゲームも導入

◆大江さん
では次に、前田建設の会社概要と退職給付制度についてお願いします。

◆青山さん
当社は1919年創業の総合建設会社で、ダムやトンネル等の公共工事の施工を主体に歩んできました。近年は高速道路や空港の運営などの総合インフラサービス事業も展開しています。

前田建設工業の退職金制度

退職給付制度は確定給付企業年金が50%、DCと退職一時金が各25%で、DCは2007年2月に、マッチング拠出は17年4月に導入しました。DCの運用商品は計31本です。

青山 佑紀さん写真

青山 佑紀さん

◆大江さん
青山さんは担当になるとすぐに、制度の資料を加入者目線で作り直されたそうですね。

◆青山さん
私は2014年に人事部に異動になった直後からDCを担当していますが、当初は専門知識もなく、制度の内容を理解するのに苦労しました。そのため社員には基本的な事項を少しでもわかりやすく伝えたいとの思いから、教育資料の抜本的な見直しを行いました。特に意識したのは、①専門用語を使わない、②文章を少なくする、③テーマを絞ってボリュームを減らす、などです。

◆大江さん
御社も集合研修を行いにくい職場環境ですが、継続教育はどのように実施されていますか。

◆青山さん
当社には山岳や離島で建設工事に従事している社員も多く、そうした人々に集合研修を行うことは困難です。そこで毎年1回、マッチング拠出の内容も含めたEラーニングを実施しています。

◆大江さん
Eラーニングに対する加入者の反応や、利用状況はいかがですか。

◆青山さん
まず2017年4月にEラーニングを通じて、マッチング拠出の導入をアナウンスしました。最初は加入者の約20%が拠出を申し込みましたが、以後も毎年Eラーニングが終わると、拠出申請の受け付けを行っています。その結果、徐々に申請率が増え、今年7月時点では加入者の30%がマッチング拠cを申し込んでいます。

マッチング拠出選択状況の推移

◆大江さん
Eラーニングで関心が高まったところで、すぐに申し込みという流れも1つの工夫ですね。ゲームの活用にもチャレンジされるそうですが、どんな内容でしょうか。

◆青山さん
今年は新型コロナの影響で新入社員へのDC教育ができていませんが、試みに金融教育のボードゲームを用意しました。DCについて学ぶ前に、株式と債券、国内と海外、リスクの幅や金融用語などさまざまな知識を、ゲームを使って楽しく習得できないかと考えたからです。
かつて従業員教育は運営管理機関に丸投げしていましたが、私たち人事部門が社員に一番適した教育とは何かを考え、ボードゲームの導入に至ったわけです。人事部門でゲームを試してみたところ、結構盛り上がりました。

退職金制度を分かりやすく伝える試み

昨年は運用商品を選ぶ際に30分間、4人1組でグループを作り、どの商品にするかをみんなで話し合ってみました。これがかなり好評だったので、来年はボードゲームと商品選択のグループトークを組み合わせた研修を実施して、DCの制度面をより詳しく説明してみたいと思っています。

コロナショックで問い合わせが3倍に増えたが
DCに対する不満の声はさほど聞かれなかった

◆大江さん
さてここからは、お二人にお聞きしたいと思います。まず青山さん、セコムの取り組みに、どんな印象を持たれましたか。

◆青山さん
紙の資料の配布、全社員を対象としたマッチング拠出の意思確認など大変努力され、かつ工夫されていると感じました。

◆大江さん
加藤さんは、前田建設工業の取り組みを聞かれていかがですか。

◆加藤さん
シンプルでわかりやすい資料作りは、日ごろ専門用語に頼りがちな私たちにとってハッとする話でした。加入者によっては、例えば拠出という言葉にも拒否反応を起こすかもしれず、平易な言葉でビジュアル化し、内容を絞る方法は勉強になりました。
また印象的だったのはボードゲームです。テキストを読んだり動画を見たりするよりも実体験のほうが記憶に残るし、プレイヤー同士も交流できる素晴らしいツールだと思います。

◆大江さん
今でこそ市場は回復しているものの、コロナショック時はDC口座も一時元本割れしたとの情報もあります。3~4月の暴落時、加入者の反応は前田建設工業の場合いかがでしたか。

◆青山さん
当社は今年1月に退職給付制度を抜本的に改め、3月にEラーニングで全社員に周知しました。この制度改定に関する問い合わせか暴落を見ての反応か調べ切れていませんが、運営管理機関によれば、3月のコールセンターへの問い合わせ件数が1月の3倍と大きく増えました。

◆加藤さん
セコムの場合は、どうでしたか。

◆青山さん
リーマン・ショックの時は怖くて加入者Webにアクセスできない社員もいましたが、今回はアクセス率も上がり、閲覧先もプランや商品情報のページが増えています。またコールセンターへの問い合わせ件数も例月の3倍に達しました。もともと3月は老齢給付金についての問い合わせが多い月で、DCへの不安の声はさほど聞こえてきません。

Web 会議のツールも浸透してきたので
コロナ禍でも学ぶ機会を減らさないようにしたい

◆大江さん
リーマン・ショックの損失を回復できた経験が、生きているのかもしれませんね。ところでコロナ禍の中で、継続教育の方法も変わっていく気がします。こんなことができたらいいというイメージはありますか。

◆加藤さん
従来の集合研修だとロールプレイングなどで、参加者同士が刺激し合うこともできました。しかし今は、集合自体にリスクがあります。また資料や説明動画をWebに掲載しても、最初はアクセスがあっても徐々に見られなくなります。これは参加型でないことが原因だと思います。
Web 会議のツールが浸透してきたので、例えば人事部は福利厚生、経理部は財務諸表の読み方、営業部は商品知識というように、社内勉強会がオンラインで定期的に開催できれば面白いですね。コロナを言い訳にして、学ぶ機会を減らさないようにしたいものです。

◆大江さん
青山さんは若い人にどう訴求するかを熱心に探ってこられたそうでが、DCをこう役立ててほしいといったことがあれば教えてください。

◆青山さん
DCは加入期間が長いので、実践を通じて投資や金融を学ぶよい機会です。若いうちは積極的に学んで、いろいろ経験してほしいですね。50代60代になると受給開始が近づいて関心も高まりますが、若い人はまだピンとこないので、人事部としても世代別のアプローチが必要だと考えています。
それからもう一点、脱退一時金の要件緩和についてですが、当社でも先日、外国籍の社員が退職しました。その時は脱退一時金を請求できなかったのですが、働き方やライフスタイルの変化に応じて、DCがより使いやすくなるのはうれしい限りです。

◆大江さん
では最後に、まだあまり継続教育に取り組めていない企業に、応援メッセージをお願いします。

◆加藤さん
当社は特別なことはしていませんでしたが、それではいけないということで、資料を紙で配布したり、マッチング拠出の「希望しない」ボタンを作ったりと、できるところから手を着けてきました。継続教育を通して運用のリスクを理解し、年金を受給する時に「良い会社にいたのだ」と実感してもらえれば最高ですね。

◆青山さん
会社ごとに社風や社員の特徴は異なるので、どのような継続教育が自社の社員に最も理解してもらえるのかを検討して、実施することが大事です。資料を作り直すといっても、担当者の少ない会社ではどこまでできるか難しいところですが、運営管理機関の資料も活用しながら、まずは少しでもいいから始めてみてはいかがでしょうか。

◆大江さん
できるところから、まず一歩ということですね。お二人とも手探りながら社員の目線に立って実践されていることが、DCへの関心を高めることにつながっていると感じました。ご視聴の各社の担当者の方も、ぜひ今日から役立てていただければ幸いです。

出演者の氏名・プロフィール

◆パネリスト◆ 加藤 雄作(かとう・ゆうさく)さん
セコム株式会社 人事部 企画・評価グループ 主務
セコムは、あらゆる不安のない社会の実現を社会的使命とし、「安全・安心」で「快適・便利」な社会システム産業の構築を目指しています。
多様な職場環境で働く社員にDCを自分事として活用してもらえるような工夫を続けており、マッチング拠出は申し込みするしないに関わらず、全員に意思表明させる方式を採用、毎年社員教育の一環として実施しているeラーニングにDCの問題を入れることよって、制度の認知率を上げてきた。四半期に1回、DCに関する情報を全社員に配布することも本社、管理部門にとっては負担になるが、継続している。目下の課題は世代などセグメントに合わせた情報提供で研修へのビルトインなどを模索している。

◆パネリスト◆ 青山 佑紀(あおやま・ゆうき)さん
2014年より人事部(現人材戦略部)に所属。建築、土木、製造、インフラ運営を行う前田建設工業にてDC業務に携わる。「社員のDC 教育の向上・普及」を目指し、社員の目線に立って自らセミナー資料を作成。わかりやすい資料に加え、新入社員研修時の工夫により、同社の正社員のDC 加入率はほぼ100% という好実績をあげている。継続教育では、全員参加のEラーニングに必ずマッチング拠出を盛り込み、着実に選択者を増やしてきた。目下の課題は「20〜30代の若い層や資産形成に無関心な層に対し、DC に興味を持ってもらうこと」とし、新たにゲーム形式の教育ツールの導入を決めた。2020年4月からはヘルスマネジメント戦略グループに所属。

◆モデレーター◆ 大江 加代(おおえ・かよ)さん
NPO法人 確定拠出年金教育協会 理事兼主任研究員

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