投資信託協会からのご挨拶 資産形成を促すための6つのステップ

冒頭、投資信託協会の会長松谷博司が挨拶に立ち、年金積立・資産形成を促進するために解消すべき「ボトルネック」と、確定拠出年金制度の運営担当者に期待される加入者支援についてお話しいたしました。

※本記事は、2020年9月30日にオンデマンド配信した「企業型確定拠出年金カンファレンス2020」の講演内容を基に構成したものです。

松谷博司氏写真

投資信託協会会長 松谷博司

日ごろ皆さんは担当者として確定拠出年金(DC)の運営に携わっておられますが、年金積立や資産形成は多くの人にとっては遠い将来の、自分がリタイアした時の話なので、実感として関心を持ちにくいものです。また正しい情報さえ提供すれば、誰もが適切に行動できるというものでもありません。多くの人々に年金積立、資産形成を促進するためには、いろいろな「ボトルネック」があるからです。このボトルネックが解消され、DCが十分に活用されるかどうかは、職場における担当者のご支援が大きな鍵を握っています。

第一歩は「資産形成の重要性」の認識

第1のボトルネックは「年金積立の重要性」の認識です。多くの加入者はまだまだ先のことと割り引いて考えがちで、「このままだと老後の生活水準をどのくらい落とすことになるのか」を示すことも、重要性を知ってもらう1つの方法でしょう。人間には、将来の損失を回避したい傾向があるからです。
しかし、資産形成の重要性を理解しても、実際の行動に結びつけるには「私の場合、どのくらい貯めればいいのかがよくわからない」というボトルネックを解消しないといけません。そのため具体的に必要な金額のガイドラインを示したり、最近では簡単に計算できるアプリもあるので、それを使えるよう支援したりすることも効果的です。
そこで、例えば「老後資産を2000万円つくる」と意思決定できても、実際の手続きが面倒なことがボトルネックになって、やめてしまう人が少なくありません。できる限り手続きを簡単にする工夫や、自動的に口座開設ができる仕組みが効果的であり、企業型DCはまさにその仕組みといえるでしょう。

定番メニューを示すことも効果的

行動を起こすにはタイミングも重要です。新入社員やキャリア採用の入社時、節目の年齢、あるいは今回のコロナショックもマッチング拠出やコースの見直しのよい機会であり、そのようなタイミングで適切な情報を加入者に届けられれば効果的です。 また、多くの金融商品の中から自分で決めるとなると「何を選べばいいのかわからない」「リスクのあるものは怖い」となりがちです。せっかく長い年月と税制優遇があるにも関わらず、リスクを避けるために金利ゼロの預金を選択する人が後を絶ちません。そこで、初めて入るレストランのように、DCでも定番メニューやシェフのお勧めのような商品があれば選びやすいでしょう。
長年にわたり多くの人がDCを利用している米国では、事業主から「当社のお勧め」「預金以外ではこの商品がよく選ばれています」といった、デフォルトと言われる定番メニューを示す方法が定着しています。

継続教育を工夫し適切なサポートを

DCで年金運用を始めたとして、まだやることがあります。当初の予定どおりに将来の年金資産を増やしていくには、時折でよいので、投資収益がどうなっているかを自らチェックする必要があります。
また、今回のコロナショックのような市場の混乱時には、冷静に判断するために的確な情報や専門家のアドバイスも必要になってきます。このため、運用状況を定期的にわかりやすく通知するシステムや、自動的に資産を再配分するようなサービスなどの導入が効果的です。DC先進国の米国では、年齢に応じて自動的に資産を再配分してくれるターゲットデートファンドやライフサイクルファンドを、DCのデフォルト商品にしている会社も少なくありません。
 最近、日本でも継続教育に先進的に取り組んでいる会社では、従業員からアンケートを取り「残高を見たことがないあなたはこのコースを受けてはどうか」「利回りをわかっているあなたならこのコースでどうか」と、関心や知識のレベルに応じた投資教育を実施している例もあるそうです。加入者が自ら年金運用をしていくには担当者による適切なサポートが不可欠で、今回のカンファレンスがその参考になれば幸いです。

出演者の氏名・プロフィール

松谷 博司氏写真

一般社団法人 投資信託協会 会長
松谷 博司(まつたに・ひろし)

1959年生まれ。83年、大阪大学経済学部卒業後、野村證券に入社し、主として企業金融業務に携わる。2006年4月野村證券執行役、13年専務執行役員、15年取締役を経て、16年に野村アセットマネジメント取締役会議長、17年には野村資本市場研究所代表取締役社長に就任。2019年6月より現職。

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