大江英樹さんに聞く「積立投資って、どう活用すればよいのでしょう?」

今や資産形成を行ううえで、積立投資が大事という声はよく聞かれます。そもそも積立投資とは何なのか、積立投資はどう活用すればよいのか、経済コラムニストの大江英樹さんにうかがいました。

大江 英樹
(おおえ・ひでき)
さん

経済コラム二スト。
大手証券会社で個人の資産運用相談などを手がけた後に独立。資産運用、行動経済学、確定拠出年金等を主なテーマとして執筆や講演活動を行っており、そのわかりやすい語り口には定評がある。主な著書は『知らないと損する 経済とおかねの超基本1年生』(東洋経済新報社)、『投資賢者の心理学―行動経済学が明かす「あなたが勝てないワケ」』(日本経済新聞出版社)等多数。

積立投資を行うメリットって何ですか?

大江さん

私は2つあると考えています。まず1つ目は、少額でできること。少額から始められますので、まとまった資金がなくても始められます。最初は少額で始め、慣れてきたら少しずつ積立金額を増やしていけばいいんです。とにかく投資を始めてみて市場の上がり下がりを体感したほうがいいと思います。

2つ目は、見えないところでお金が積み上がっていくこと。一度積立投資を始めるとあとは毎月自動で投資をすることになりますので、積立投資を始めてから、10年、20年が経ち、ふたを開けたら、大きな金額になっていたというのはよくある話です。特に若いうちは、投資で失敗するのもよい経験です。まずはマーケットにお金を置いて、投資した資金が増えたり減ったりするのを見ておくことが大事です。それに慣れていけば、退職金など大きなお金を運用する場面で慌てることなく冷静に判断できるようになるはずです。

「積立投資をすればリスクが軽減される」という話を聞きますが、それって本当ですか?

大江さん

それはちょっと違うと私は考えています。「毎月一定額で積立投資をすれば、価格が高い時は買える口数が少なく、価格が安い時は買える口数が多くなるため、高値づかみすることが少なくなり、平均すると購入価格を下げることができる」とよく言われます。こうした投資方法を「ドルコスト平均法」といいますが、これで決してリスクが軽減されるわけではありません。

ドルコスト平均法のメリットは、価格が循環的に上下動を繰り返す局面においては有効ですが、ずっと値上がりが続いている局面では、価格が高くなるにつれて平均的な購入価格が上がってしまい、次に下落する局面が来た時に、積み立てた資産が大きく値下がりことになります。ドルコスト平均法については、さまざまな顔を見せるマーケットの一局面でのメリットしか語っていないのです。

ではどういう環境なら、積立投資が有利といえるのでしょうか?

大江さん

マーケットが上昇し続けている時は、平均的な購入価格も上がってしまうので、一度に投資する場合に比べて積立投資は有効とは言えません。積立投資が有利になるのは、それとは逆のパターン。つまり、下げ相場。もっと踏み込んで言えば、大きく値下がりした時でも、同じ額(定額)で積み立てているのが有利なのです。値上がりしている最終局面で積立投資をスタートさせ、大きく値下がりしてもずっと積立投資を継続するのが成功するパターンといえます。

積立投資は、投資信託などの商品を毎月定額で購入するもの。マーケットが暴落して投資信託の基準価額が大きく下がっても、同じ額で購入するならその分、口数を多く買えます。低い価格の時にたくさんの口数を買い付けることができれば、マーケットが反転して上昇した時には、それほど値上がりしなくても元本を回復できます。暴落前の水準まで戻る頃には、元本を上回る収益を得ることになるでしょう。

積立投資で資産を増やすには、過去のリターンが高い商品で運用したほうがよいのでしょうか?

大江さん

もちろん投資をする上で過去のリターンを参考にすることは重要です。それにも増して積立投資で資産を増やすために大事なのは、「積み立てる投資資金を増やすこと」なのです。これは実際に計算してみると分かるので例を挙げてみましょう。

まず毎月2万円ずつ20年にわたって積み立てたとしましょう。すると、元本は2万円×12カ月×20年=480万円です。これを年3%の複利で運用したとすると、約657万円になる計算です。一方、毎月3万円を20年間積み立てると、元本だけで3万円×12カ月×20年=720万円になります。全くリターンがなかったとしても、毎月の積立金額を1万円増やしただけで、年3%のリターンで運用した場合より、多くの資産を形成できるのです。

もともと投資商品の運用成績は不確実なものですから、リターンに頼るよりも、まずは積み立てる金額を増やしたほうが、より資産を積み上げられるのです。

投資信託で積立投資をする場合、どんな商品で始めるのがよいでしょうか?

大江さん

私個人の見解ですが、運用コストが比較的低いバランス型の投資信託1本で積み立てていくのは一つの手だと思います。ある程度自分の手で投資をしてみたいという人なら、株式のインデックスファンドや債券のインデックスファンドなど資産別のインデックスファンドを集め、それらを組み合わせてオリジナルのポートフォリオ(資産配分)で積み立てていくのも“あり”だと思います。この両者はどちらがよい、悪いという話ではなく、好みの問題です。どちらを選んでもよいと思います。

ただ、自分でポートフォリオを組んで積み立てていく場合、「どの資産に何パーセントを配分するか」「どの資産を選んで組み合わせればよいか」などを、自分で調べて考える必要があります。この方法だとある程度、投資に興味がある人でないと挫折してしまうでしょう。となると、投資初心者の人は、あらかじめ資産配分がされているバランス型の投資信託から始めてみるのがよさそうです。

積立投資をする上で一番大事なことは何でしょうか?

大江さん

それはもう「積立投資をひたすら続けていくこと」だと思います。積立投資でも何でもそうですが、始めるのは簡単です。でも、続けることはとても難しいです。

続けるためには、積立投資をしていることを忘れてしまうくらいが、ちょうどよいと私は思っています。忘れたまま積立投資を続けていくうちに、意外と大きな金額になっていることにある日、気づくでしょう。そうなると、そのお金をもっと増やしたいと思い始めます。結果、積み立てたお金を取り崩したくなくなり、さらに積み立てようと考えるようになります。こうなればしめたものです。そこから一気に積立投資による資産形成のペースが加速していくはずですよ。

※このインタビュー内容は、個人の発言に基づき構成されており、投資信託協会がその内容を必ずしも保証するものではありません。