山崎俊輔氏インタビュー

山崎俊輔氏。1995年、中央大学法学部卒業。同年、株式会社企業年金研究所入社。2000年、株式会社FP総研入社。2001年、情報サイト『All About』にて、マネーチャネル「30代からの将来設計と401k」連載開始。2002年、商工会議所年金教育センター主任研究員(嘱託)として、企業年金・退職金制度の見直しに関する執筆、講演等の啓発活動に取り組む。2006年より 企業年金連合会会員センター調査役確定拠出年金担当(嘱託)。ファイナンシャル・プランナー、1級DCプランナー、消費生活アドバイザー。近著に「お金の知恵は45歳までに身につけなさい」

制度の改善という点でいえば、今年(2012年)の1月から「マッチング拠出」が導入されました。このマッチング拠出の概要やメリットを教えてください。

企業型の確定拠出年金では、これまで会社側しかお金を拠出することができませんでした。しかし今年1月から、一定の条件の下、従業員個人が会社側の拠出金に上乗せ(マッチング)して拠出できるようになりました。

このマッチング拠出には、大きなメリットが3つあります。まず1つは、従業員がマッチング拠出した拠出金(掛け金)の全額が所得から控除される点。2つ目は、運用益の非課税メリットが個人の拠出金にも適用される点です。受取時点の退職所得控除も含めると、トリプルで税制上の優遇措置を受けられる可能性があるわけで、非常に強力なメリットです。

そして3つ目は、老後資金を蓄えるための選択肢が広がる点です。今までは確定拠出年金にプラスして老後資金を増やすには、手元資金でリスクをとって資産運用するしかありませんでした。しかしマッチング拠出が導入されたことにより、手数料や税制などいろいろな面で有利な確定拠出年金の中で運用することも選択できるようになったわけです。

ただし、もちろん注意点もあります。まずマッチング拠出の掛け金は、原則として中途解約できません。たくさん拠出したのはいいけれど、それで子どもの教育費が足りなくなった、というのでは困ってしまいます。

また金額には上限が設けられています。
(1)会社の拠出金額以下であること、
(2)会社の拠出金と従業員の拠出金の合計額が51,000円以下であること、
の2つの条件をどちらも満たす必要があります(他に企業年金のある場合は、25,000円以下となる)。

つまり会社の拠出金が10,000円の方は、 10,000円までしか拠出できません。また会社の拠出金が51,000円の方は、残念ながらマッチング拠出はできないことになります。

現状では、マッチング拠出の導入は一部の会社に限られているようですね。

今はまだ制度が始まったばかりなので、仕方がない面はあるでしょう。しかし、マッチング拠出に興味があるのであれば、組合などを通じて要望してみるのもいいと思います。実現の可能性は高いと思いますよ。

商品購入後の運用についてもアドバイスをお願いします。

確定拠出年金は短期で利益を狙う投資手法には向きませんから、やはり長期的なスパンでの運用が基本になります。

山崎俊輔氏インタビュー

運用のポイントは、Plan-Do-Seeの「See」の部分です。つまり商品を購入してそのまま放ったらかしにするのではなく、購入後、定期的に運用を見直すことが大事です。確定拠出年金に加入すると、年1回から2回、紙ベースの運用報告書が届きます。またホームページを見れば、いつでも現時点での資産残高を確認できます。これらを、できれば年に1度くらいはチェックして、「運用状況はどうなっているのか」そして「現状の運用をそのまま続けていいのか」を判断してください。

運用の見直しをするためには、資産形成の目標額や、容認できるリスクの大きさを、まずは考える必要があります。前述したように資産全体で考えた結果、リスクが大きすぎると感じたら、投資信託のウエートを下げるべきでしょうし、逆にリスクをもっと取れる方は、投資信託の購入割合を増やせばいいでしょう。見直しと同時に、十分なリターンが得られたと感じた商品は売却して、利益を確定させていくことも大切です。

自分で運用の見直しができる点も、確定拠出年金の特色ですね。

はい。専門的な言葉になってしまいますが、確定拠出年金の運用の見直しには、「スイッチング」と「配分変更」という2通りの方法があります。

「スイッチング」は、確定拠出年金としてすでに積み立ててある資産の見直しです。例えば、500万円の定期預金の残高があるとき、50万円分定期預金を解約し、そのお金で投資信託を購入する、というようにある商品を解約し他の商品を購入することで、現在積みあがっている確定拠出年金の資産のなかで投資先を変えることを「スイッチング」と言います。

一方、「配分変更」は、今後、積み立てる掛け金の見直しになります。確定拠出年金では、毎月の掛け金で、どの商品をどのくらいの割合で購入するかを、あらかじめ決めておきます。例えば月15,000円の掛け金で、10,000円を元本保証型商品、5,000円を投資信託に配分していたとします。この配分を、次の月から元本保証型商品5,000円、投資信託10,000円といった具合に、変更することができます。

もっとリスクを取って運用したいけど、まとまった資産を投資信託にスイッチングするのは怖いという方もいらっしゃると思います。そうした方は「配分変更」で投資信託の割合をじわじわと増やしいくのも、一つの方法になります。

リーマンショック時のように、相場が急落したときは、どのように対処すれば良いでしょうか。

実は確定拠出年金の資金の流れを見ると、リーマンショック時なども全体としては、大きな動きはありませんでした。慌てて資産を売った方ももちろんいるでしょうけれども、多くの人はあまり気にしていなかったのだと思います。確定拠出年金では、毎月一定額の掛け金を拠出します。投資信託であれば、相場が下がれば、自動的にいつもよりも多くの口数を購入できるわけですから、あまり目の前の事象に流されずに、長期運用を継続するのがいいと思います。

そうはいっても、長期運用をして、退職間際になって資産が暴落すれば最悪の結果になってしまいます。20~30代の若いうちは、積極的にリスクをとってもいいと思いますが、難しいのは50代です。50代になったら利益を確定しながら、徐々にリスク性商品のウエートを下げていくことも、考えないといけないでしょう。もちろんリスクを低くすれば、期待できるリターンも下がる点が悩ましいところです。

その点は確かに難しいですね。ただ若いころから確定拠出年金を通じて投資をしていれば、投資判断の能力も高まるのではないでしょうか。

確定拠出年金の投資信託は通常のものと異なり、1円単位で購入できるようになっています。極端な話、会社の拠出金が1,000円しかなくても世界中に分散投資ができる。実はこの点はとても重要です。

というのも、たとえ少額であっても実際に投資をして100カ月(8年強)ぐらい経てば、誰もが優れた個人投資家になれると私は思っているからです。100カ月あればその間にマーケットの大きな上がり下がりを、経験できるでしょう。その経験が、特に若い方にとってはお金に代えられないくらい貴重な財産になるのです。同じ100カ月、勉強だけして実際にお金を運用していない人は、経験という差がついてしまうのです。

退職して初めて退職金を元手に運用をする人と、退職まで確定拠出年金で運用をしていた人とでは、金融の知識・経験に雲泥の差があります。経験を積んでいれば、詐欺まがいの高リスク商品に資産全額をつぎ込むといったこともなくなるはずです。少額からでも経験を通して金融リテラシーを身につけられる点も、確定拠出年金の大きなメリットなのです。

加えて、確定拠出年金では企業側に投資教育の義務が課されています。その投資教育は、社会的にも意義の高いものだと思います。金融のプロフェッショナルから体系的・中立的に教育を受けられる機会は、他にほとんどないからです。そのような優れた教育を、従業員は無料(会社負担)で受けることができるのです。ぜひ、この機会を活かしてほしいと思います

2回にわたり、貴重なお話をありがとうございました。

 

 


※このインタビュー内容は、個人の発言に基づき構成されており、投資信託協会がその内容を必ずしも保証するものではありません。

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